第77話 目なき男の嗅覚
ギルドの前。
人の出入りが絶えない通り。
その向かいに一人の乞食が座っていた。
アリューの足が止まる。
「……ん?」
何かが引っかかる。
近づく。
そして、見た瞬間、言葉を失う。
目がない。
くりぬかれたように真っ黒な穴。
何もない。
ただの空洞。
ユウが小さく息を呑む。
シリューも眉をひそめる。
アリューは無言で懐に手を入れる。
金貨を一枚。
そっと、丁寧に器の中に入れる。
「……大変ですね」
その瞬間、乞食が動いた。
鼻を鳴らす。
くん……くん……
空気を嗅ぐ。
そして、ガバッと立ち上がる。
一瞬でアリューに抱きつく。
「うおっ!?」
猛烈な勢い。
顔を押し付ける。
嗅ぐ。
嗅ぐ。
嗅ぐ。
「な、なんだこいつ!?」
ユウとシリュー。
完全に引く。
だが乞食は止まらない。
「お……おまえ……」
顔を上げる。
「ワイダーか?」
空洞の目が、まっすぐアリューを向いている。
三人が固まる。
「……ワイダー!?」
ワイバーン乗りの事で、自分たちのパーティ名、赤翼のワイダー。
だが乞食は確信している。
「ワイバーンの匂いがする……」
震える声。
「ワイダーなのか……?」
アリューが一瞬迷う。
隠すか。
だが、この男は違う。
「……ああ」
短く答える。
その瞬間。
乞食の体が震える。
そして涙。
目のない空洞から止めどなく溢れる。
「そうか……そうか……」
崩れ落ちそうになる。
次の言葉。
「逃げたのか?」
空気が変わる。
4人が一斉に顔を上げる。
乞食は4人の方を正確に向く。
見えていないはずなのに。
「4人……お嬢さんは違うか?」
とラ・セレールの方を向いて言った。
言い当てる。
「どこで……どうやって逃げた……?」
ざわ……
通行人が足を止める。
視線。
身なりのいい4人の若者。
そして汚れきった乞食。
明らかな違和感。
シリューが小声で言う。
「ここじゃまずい」
ユウも頷く。
アリューが決断する。
「……食事でもどうですか?」
乞食が顔を上げる。
一拍。
「……ああ」
口元がわずかに緩む。
「ちょうど腹が減ってるんだ」
三人は顔を見合わせる。
そして頷く。
向かった先、ギルドの向かい。
テラス付きの飯屋。
中に入る。
店員が顔を上げる。
そして乞食を見る。
露骨に嫌な顔。
だがすぐに三人を見る。
その瞬間。
「いらっしゃいませ!」
笑顔。
切り替えが早い。
アリューはそれを見て、少しだけ目を細めた。
席に案内される。
乞食は静かに座る。
だがその鼻は、まだわずかに三人の匂いを追っていた。
「話がある」
低い声。
「長くなるぞ」
三人は黙って頷く。
この男は知っている。
ワイダー。
その言葉の意味を。
そして、自分たちの知らない何かを。




