第72話 三匹目の壁
「ホー」
師匠が一言だけ言った。
それだけ。
そして――
ユウの腕にぶら下がっていた魚をひょいと持っていき、そのまま家の中へ消えた。
沈黙。
三人が固まる。
アリューが口を開く。
「……いや」
シリューも続く。
「……いやいや」
ユウが叫ぶ。
「なんか言えよ!!」
だが返事はない。
完全に無視。
アリューがため息をつく。
「……まぁいい」
シリューが頷く。
「次だな」
ユウも気持ちを切り替える。
「うん、もう一匹!」
三人はすぐに再び池へ。
作戦は同じ。
岩壁+二人で三角。
上をユウが押さえる。
バシャッ!!
飛び込む。
すぐに動く。
一匹を追い込む。
流れを読む。
逃げ道を塞ぐ。
岩壁へ。
完璧な流れ。
そして跳ねる。
ユウが掴む。
今度は迷いなし。
ガシッ!!
しっかりと捕まえる。
多少暴れる。
だが関係ない。
「とれた!」
ユウが叫ぶ。
アリューが笑う。
「いいぞ!」
シリューも頷く。
「安定してきたな」
二匹目。
あっさり。
成功。
だが、問題は三匹目。
水の中。
気配が違う。
重い。
濃い。
シリューが呟く。
「……こいつ」
アリューも感じる。
「別格だな」
ユウが緊張する。
「いけるかな……」
それでも行く。
やるしかない。
アリューが動く。
追う。
だが速い。
異常に。
シリューが回り込む。
だが。
ドンッ!!
衝撃。
魚が突っ込んできた。
「ぐっ!!」
シリューの体が押される。
流される。
踏ん張れない。
包囲網が崩れる。
魚は一瞬で離脱。
姿が消える。
三人が浮上する。
「はぁ……!」
シリューが息を整える。
「……強い」
アリューが舌打ちする。
「今までとレベルが違う」
ユウが悔しそうに言う。
「あと一匹なのに……」
その時。
ふと気づく。
「……あれ?」
ユウが周りを見る。
「二匹目……どこ?」
三人が固まる。
そして。
同時に理解する。
「……あのオヤジ」
家の方を見る。
煙が上がっている。
アリューが呟く。
「……持っていきやがったな」
シリューが苦笑する。
「間違いない」
ユウが怒る。
「早すぎでしょ!!」
一旦。
作戦会議。
三人は陸に上がる。
座る。
考える。
アリューが言う。
「力が違う」
シリューが頷く。
「正面は無理だな」
ユウが考える。
「じゃあどうする……」
その時。
家の方から声。
「出来たぞ」
三人が振り向く。
「晩飯」
沈黙。
ユウが言う。
「……え?」
腹が鳴る。
グゥゥゥ……
アリューが立ち上がる。
「……食うか」
シリューも苦笑する。
「……だな」
ユウも頷く。
「お腹すいた……」
三人は家へ。
中に入ると。
そこには、料理。
一匹は丸ごと。
美しく捌かれた刺身。
ラ・セレールが満面の笑顔で、大皿を持ってきた。
もう一匹は。
すり身にされて鍋。
湯気が立つ。
いい匂い。
ユウの目が輝く。
「うわぁ……」
シリューが言う。
「魔物だぞ?」
師匠が答える。
「魔素はある」
少し間。
「だが、浄化魔法で抜いた。さばいたのはラ・セレールだ」
アリューが感心する。
「そんなことできんのか」
師匠は何も言わない。
ただ食えと目で言う。
三人は座る。
手を合わせる。
「いただきます」
一口。
刺身。
ユウが固まる。
「……淡泊なんだけどおいしい」
シリューも驚く。
「なんだこれ……旨味が凄い」
アリューも目を細める。
「力が出るな」
ラ・セレールが恐る恐る箸をつける。
「私、魚って初めてなんです」
そうって口になんとか運んだ。
「おいしい~こんなにおいしいの?」
鍋も食う。
体が温まる。
魔力が満ちる感覚。
外は暗い。
今日は終わり。
戦いはまた明日。
だが。
三人の目は変わっていた。
最後の一匹。
必ず捕まえる。




