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赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


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第70話 涙の価値


森へ戻る。

あの場所へ。

三人はすぐに動いた。

「探せ!」

アリューの声。

シリューもユウも散開する。

だが、ない。

ほとんど、血がない。


地面は黒く染まっている。

だがそれだけだ。

血は。

吸われている。

土に。

完全に。


ユウが震える声で言う。

「……嘘でしょ」

シリューが歯を食いしばる。

「飛びすぎた……」

爆発。

雷。

その代償。


三人は必死に探す。

土を掘る。

葉をかき分ける。

石をどける。

手が汚れる。

爪が割れる。

それでも。


「……あった!」

ユウが叫ぶ。

指先ほどの小さな塊。

血の残骸。


だが。

それだけ。

さらに探す。

見つかる。

また一つ。

また一つ。

合計五つ。


少なすぎる。

絶望的に。

アリューがその場に座り込む。

「これだけかよ……」

シリューも膝をつく。

ユウの目から涙がこぼれる。

「足りないよ……」


静寂。

森の音だけが響く。

三人は途方に暮れた。


やがて。

アリューが立ち上がる。

「……まだだ」

ギガントメガデスの死体へ向かう。

剣を抜く。

そしてズバッ!!

腹を裂く。


中から現れたのは青い魔石。

約五センチ。

美しく輝く。

だが。

血はほとんど出ない。

乾いている。


ユウが泣きながら言う。

「もう……無理だよ……」

シリューも目を閉じる。

「……間に合わない」


その時。

アリューが無言で服を脱いだ。

シャツ。

それを死体に押し当てる。

わずかに残る

血を染み込ませる。


ゆっくりと丁寧に。

一滴でも無駄にしないように。


ユウがそれを見る。

「……アリュー」

シリューも何も言わない。


アリューはシャツを握る。

血で汚れた布。

それを大事そうに抱える。

そして。

小さく言う。

「……帰るぞ」


帰り道。

誰も喋らない。

ユウの涙が止まらない。

シリューも黙っている。

アリューは前だけを見る。

 アルフェリス、スノウェルとの思い出が涙と共にこみ上げる。

ギルドが見える。

広場。

そこに。


「……え?」

ユウの声が止まる。


そこにいたのは。

アルフェリス。

スノウェル。


動いている。

いや元気に遊んでいる。

元気に。

普通に。


そして。

その中心にいたのはグラナディス。


アリューが固まる。

「……は?」

シリューも言葉を失う。

ユウが呟く。

「なんで……」


グラナディスが振り返る。

ニヤリと笑う。

「遅かったな」


アリューが詰め寄る。

「どういうことだ!!」

グラナディスは肩をすくめる。

「簡単だ」

腕を軽く見せる。

そこには浅い傷。


「血を一滴垂らしただけだ」

さらりと言う。


沈黙。

三人の頭が止まる。


ユウが震える声で言う。

「……一滴?」

グラナディスが頷く。

「ああ」

「十分だった」


シリューが呟く。

「……は?」


アリューの顔が引きつる。

そして叫ぶ。

「この涙を返せぇぇぇぇ!!」


ユウも叫ぶ。

「めっちゃ探したんだけど!!」

シリューも珍しく声を荒げる。

「爪割れたぞ!!」


グラナディスは大笑いする。

「ははははは!!」


その時。

ブモーが近づく。

「グル……」

グラナディスは指を切る。

一滴。

ポタリ。


ブモーがそれをペロッ。


次の瞬間。

ブワッ!!

魔力が溢れる。

体が完全に戻る。

力強く。

翼を広げる。


ユウが呆然とする。

「……チートじゃん」

シリューがため息をつく。

「規格外すぎる」


アリューはしばらく黙っていた。

そして笑った。

「……まぁいいか」


三人はその場に座り込む。

疲れ。

安心。

そして。

少しの怒り。


空は青い。

風が吹く。

ワイバーンたちは元気に動く。


グラナディスが言う。

「いい訓練になっただろ?」

アリューが答える。

「……ああ」

ユウも言う。

「泣いたけどね」

シリューが小さく笑う。

「無駄じゃなかった」


その日。三人は一つ知った。


本当に強い存在は常識を超えてくる。


そしてもう一つ、仲間のために流した涙は、無駄じゃない。



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