第62話 無酸素の境地
ラ・セレールが見守る。
アリューが飛び込む。
バシャッ!!
続いてシリュー。
ユウも覚悟を決めて飛び込んだ。
水は濁っていた。
茶色い。
視界はほとんどない。
ユウが思う。
(見えない…)
水中。
静かだが、
どこか不気味だった。
最初の数分。
三人はただ泳ぐ。
しかしすぐに限界が来る。
5分。
それが限界だった。
肺が苦しい。
息が欲しい。
ユウがもがく。
(苦しい…!)
その時。
ふっと感覚が変わる。
頭が軽くなる。
意識が遠のく。
そして広がる感覚。
まるでどこかと繋がるような、宇宙のような、静かな空間。
ユウが思う。
(これ……)
以前やった
魔力訓練と同じ感覚。
しかしその瞬間。
バシャッ!!
何かが横を通る。
ユウは反射的に避ける。
水が揺れる。
影。
ゴライアスタイガー。
速い。
とにかく速い。
油断すれば噛みつかれる。
ユウは必死に逃げる。
(無理…!)
触ることすらできない。
そのまま浮上。
バシャッ!!
大きく息を吸う。
「はぁ!!」
シリューも顔を出す。
「見えない」
アリューも上がる。
「無理ゲーだな」
何度も潜る。
何度も失敗する。
1回。
2回。
3回。
ゴライアスタイガーはまったく捕まらない。
見えない。
速い。
噛みつく。
完全に
理不尽。
ユウが言う。
「これ無理じゃない?」
シリューも頷く。
「正直きつい」
しかしアリューは笑う。
「だからだろ」
また潜る。
5回目。
7回目。
9回目。
限界まで潜る。
意識が遠のく。
あの感覚。
宇宙のような静けさ。
その中で。
ユウは気づく。
(……違う)
目で見ていない。
でも。
何かが分かる。
水が揺れる。
流れ。
圧。
微かな変化。
そこに・・
「いる」
ユウの手が動く。
しかし。
あと少しで逃げられる。
それでも。
感覚は掴んできた。
10回目。
三人は再び潜る。
水は相変わらず濁っている。
見えない。
それなのにアリューが動く。
「そこだ」
手を伸ばす。
ゴライアスタイガーが避ける。
しかし。
シリューが回り込む。
「読める」
水の流れ。
波。
動き。
見えないのに位置が分かる。
ユウも弓の代わりに手を伸ばす。
(右……来る)
避ける。
噛みつきを回避。
三人の動きが変わっていた。
完全ではない。
だが確実に見えてきている。
水の中で。
三人は同時に思った。
(いける)
濁った水の中で。
見えない敵が少しずつ「見える」ようになってきた。




