第56話 泣くエルフ
まだ夜が終わりきっていない。
空は暗い。
森は静かだった。
三人は焚き火のそばで眠っていた。
その時。
すすり泣く声。
「……ひっ……」
「……うぅ……」
ユウが目を開ける。
「……?」
耳を澄ます。
また聞こえる。
泣いている声。
ユウはアリューを揺らした。
「ねえ」
「聞こえる?」
アリューも目を開ける。
シリューも起きる。
三人は顔を見合わせた。
「女の声?」
ゆっくり立ち上がる。
音の方へ近づく。
森の奥。
木の根元。
そこに――
一人の女性。
座り込んで泣いていた。
長い髪。
白い肌。
耳が少し長い。
ユウが小さく言う。
「エルフ…」
とても
美しい女性。
しかし。
顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
シリューが優しく声をかける。
「どうしたの?」
女性は顔を上げた。
驚く。
しかしすぐにまた泣き出す。
「……」
アリューが聞く。
「誰かに追われてる?」
女性は答えない。
ただ泣く。
ユウが近づく。
「大丈夫?」
それでも答えない。
シリューがしゃがむ。
声を柔らかくする。
「怖いよね。でも・・俺たちは敵じゃない」
女性の肩が震える。
しばらくしてやっと言葉が出た。
「……村」
「エルフの村」
シリューが聞く。
「どこ?」
女性は涙を拭く。
「遠い森・・・そこから……」
声が震える。
「拉致された」
三人の顔が変わる。
ユウが聞く。
「誰に?」
女性は森の奥を指す。
「この先の山のふもと男たち・・たくさんいる」
アリューの目が細くなる。
「奴隷商人か」
シリューが聞く。
「他にも?」
女性は泣きながら言う。
「三人・・捕まった・・私たち」
ユウが息をのむ。
「三人?」
女性は続ける。
「一人は・・・売られた」
ユウの顔が青くなる。
「もう一人は?」
女性は目を閉じた。
涙が落ちる。
「殺された」
静寂。
森の空気が変わる。
アリューの拳が震える。
「……」
ユウが見る。
アリューの顔。
怒っている。
完全に。
怒りモード。
アリューが立ち上がる。
「場所」
女性が震える指で山の方を指す。
「あっち」
アリューが言う。
「行くぞ」
ユウが聞く。
「え?」
アリューの声は低い。
「つぶす」
シリューが立つ。
「まあそうなるよな」
ユウも頷く。
「うん」
アリューはナイフを握る。
「人さらいは嫌いだ」
その一言で、父たちの事を思い出した。
シリューが槍を持つ。
ユウは弓を背負う。
泣いていたエルフの女性は驚いて三人を見た。
「……行くの?」
アリューが振り返る。
ニヤリと笑う。
「当然ぶっ潰す。」
まだ暗い森の中。
三人は山のふもとへ歩き出した。
怒りを胸に抱えて。




