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赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


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第48話 伯爵の怒り


 王都。

 巨大な屋敷の中で、怒号が響いた。

「何だと!!」

 机が叩き割られる。

 立ち上がっているのは、ヴァルクレイド伯爵。

 レオンの父だった。

 報告している騎士が震える。

「レオン様が……学校で……」

「平民に殴られ……」

「気絶……」

 その瞬間。

 伯爵の顔が怒りで歪んだ。

「平民だと!?」

 拳が震える。

「我が息子を!?」

 静かに命令する。

「馬を出せ」

 そして低く言った。

「その学校へ行く。」


 翌日。

 学校の門の前に、重い蹄の音が響いた。

 騎士。

 五人。

 そして中央に一人。

 豪華な外套。

 鋭い目。

 ヴァルクレイド伯爵。

 生徒たちがざわめく。

「やばい……」

「伯爵だ……」

「本物の貴族……」

 伯爵は校舎へ入ると、まっすぐ校長室へ向かった。


 校長室。

 すでに一人の男が座らされていた。

 いや――

 正座させられていた。

 この土地の領主。

 サルダル子爵。

 しかし今は顔が青い。

 伯爵の前では格下だった。

 伯爵が椅子に座る。

「さて」

 低い声。

「私の息子を殴った者は?」

 校長が慌てて言う。

「すぐ呼びます!」


 しばらくして。

 ドアが開く。

 入ってきたのは二人。

 アリュー。

 そして――

 ユウ。

 レオンはソファに座っていた。

 体中包帯だらけ。

 だが顔は得意げだった。

 アリューを見ると笑う。

「よう」

「来たな」

 伯爵がゆっくり見る。

「お前か」

「息子を殴った平民は」

 アリューは普通に答える。

「そうだ」

 伯爵の眉が動く。

 その態度が気に入らない。

 レオンがにやにや言う。

「父上」

「こいつの」

「両手両足折ってもいい?」

 伯爵は冷たい目でアリューを見る。

「いいぞ」

「その程度では済まんがな」

 校長が頷く。

「当然です!」

 子爵も慌てて言う。

「申し訳ありません!」

 しかし。

 アリューは全く動じなかった。

 むしろ言った。

「その前に」

 伯爵が眉をひそめる。

「なんだ」

 アリューは堂々と答えた。

「息子の教育がなってない。」

 空気が凍る。

 校長が叫ぶ。

「無礼者!」

 アリューは続けた。

「だから、代わりに教育した」

 伯爵の顔が赤くなる。

 レオンが怒鳴る。

「てめぇ!」

 校長も机を叩く。

「黙れ!」

 三人が一斉にまくし立てた。

「平民が!」

「伯爵家に逆らうとは!」

「貴族への暴力だぞ!」

「死罪でもおかしくない!」

「今すぐ謝罪しろ!」

 怒声が校長室に響く。

 しかし――

 アリューは微動だにしない。

 ユウも同じだった。

 二人とも、ただ静かに立っている。

 まるで嵐の中の岩のように。

 伯爵が気づく。

「……ほう」

「怖くないのか?」

 アリューは答える。

「怖い?」

 少し考える。

 そして言った。

「別に」

 レオンが歯ぎしりする。

 伯爵が低く言った。

「最後の機会だ」

「土下座して謝れ」

「そして腕を差し出せ」

「それで済ませてやる」

 沈黙。

 校長室の空気が張り詰める。

 その時だった。

 ドアの外から――

 コツ、コツ。

 ゆっくりした足音。

 そして声。

「随分」

 低く響く声だった。

「楽しそうだな」

 ドアが開く。

 そこに立っていたのは――グラナディス。

 青い瞳が、伯爵を見ていた。



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