第49話 竜の保護者
校長室の空気が凍っていた。
ドアの前に立つ男。
グラナディス。
伯爵が眉をひそめる。
「誰だ貴様」
グラナディスは肩をすくめた。
「保護者だ」
アリューが小声で言う。
「……え?」
ユウも小さく驚く。
グラナディスは部屋の中を見回した。
そしてレオンを見る。
包帯だらけの少年。
「なるほど」
静かに言った。
「折ってもいいぞ。」
一瞬。
時間が止まった。
アリューとユウが顔を見合わせる。
「え?」
「え?」
グラナディスは続けた。
「ただし」
指をアリューに向ける。
「こいつは」
「ただでは折られない。」
伯爵が笑う。
「当然だろう」
グラナディスは言う。
「そういう気質だからな」
「反撃もするだろう」
そしてゆっくり聞いた。
「……それでもいいのか?」
伯爵は椅子に深く座る。
「ははは」
後ろを指す。
そこには――
騎士五人。
全員が鎧を着た屈強な男たち。
「見えるか?」
「我が家の騎士だ」
伯爵が笑う。
「それでもいいのか?」
グラナディスは頷いた。
「あぁ」
「構わない」
そして言った。
「こいつは」
アリューを親指で指す。
「いささか暴れん坊でな」
「わしも」
少し笑う。
「手がつけられん。」
アリューが苦笑する。
ユウが小さく吹き出す。
しかしグラナディスの目は笑っていなかった。
伯爵を見る。
「ただし」
声が少し低くなる。
「こいつが反省しなかったら」
「もう」
「権力を振りかざすのはやめたほうがいい。」
伯爵が眉をひそめる。
「何だと?」
グラナディスは続けた。
「万が一」
「それを守れなかったら」
軽く首を傾げる。
「俺」
「怒っちゃうよ」
その言い方は軽かった。
だが。
次の言葉で空気が凍った。
「俺が怒ったら、王都などなくなってしまうからな。」
沈黙。
校長の顔が青くなる。
騎士たちが眉をひそめる。
伯爵は笑った。
「大きく出たな」
しかし――
一人だけ違った。
床に正座していた男。
サルダル子爵。
彼は震えていた。
顔色が真っ白。
目を見開いている。
「まさか……」
小さく呟く。
「青い髪……」
「その魔力……」
そして。
やっと気づいた。
この男が誰なのか。
伝説。
王都の書庫にある記録。
何百年前の災厄。
その名が頭に浮かぶ。
「りゅ……」
声が震える。
「竜……」
体が震える。
汗が止まらない。
「グラナ……」
言葉が出ない。
伯爵が不機嫌そうに言う。
「何を震えている」
子爵は伯爵を見た。
目が完全に恐怖だった。
「伯爵……」
「やめてください……」
伯爵が苛立つ。
「何を言っている」
子爵は震えながら指を向けた。
グラナディスへ。
「その方は……」
言葉が続かない。
呼吸が乱れる。
泡が口からこぼれる。
「ひ……」
「ひぃ……」
そして――
バタン。
子爵は泡を吹いて倒れた。
気絶。
校長室が静まり返る。
伯爵が眉をひそめる。
「……何だこいつは」
グラナディスは小さく笑った。
「さて」
腕を組む。
「どうする?」
伯爵を見る。
その青い瞳が――
竜の目だった。




