第45話 蹴球の授業
学校に通い始めて数日。
アリュー、シリュー、ユウの三人は、すでに学校中で有名になっていた。
スタンピードを止めた英雄。
しかも強い。
さらにワイバーンと暮らしている。
噂はすぐ広がった。
廊下を歩くだけで人が集まる。
特に――
女子生徒。
「アリューさん!」
「昨日の戦いの話、聞かせてください!」
「好きな人はいますか?」
アリューは少し困った顔をする。
「いや……特に」
すると別の女子がユウを見る。
「ユウさんは彼女なんですか?」
ユウが目を丸くする。
「え?」
アリューも驚く。
「違う違う」
別の生徒が聞く。
「アリューとシリューって名前似てますよね」
「兄弟ですか?」
シリューが静かに答える。
「違う」
ユウが笑う。
「たまたま」
生徒たちはさらに盛り上がる。
「でもなんか似てる!」
「雰囲気が!」
アリューは頭をかいた。
「そうか?」
その日の午後。
体育の授業。
広い校庭。
先生が言う。
「今日は**蹴球**だ」
生徒たちがざわめく。
地面に丸い球が置かれていた。
先生が説明する。
「ルールは簡単」
「この球を相手のゴールに入れる」
校庭の両端に木の枠が立っている。
「ゴールを守る人は一人」
「その者だけ、手を使ってよい」
そして指を立てる。
「魔法は禁止。」
生徒たちが頷く。
先生がチームを分け始めた。
「アリューはゴール守り」
アリューが少し驚く。
「俺?」
「体格がいいからな」
そして――
「シリューは前」
「ボールを扱う役だ」
シリューは静かに頷く。
さらに先生が言う。
「アリューとユウは同じチーム」
「シリューは相手チームだ」
ユウが笑う。
「お兄ちゃん敵だ」
シリューが小さく言う。
「容赦しない」
試合が始まる。
「始め!」
笛が鳴った。
ボールが転がる。
そして――
シリューが動いた。
速い。
とんでもなく速い。
足がほとんど見えない。
右へ。
左へ。
ボールが踊る。
生徒たちが追いかける。
しかし触れない。
「あっ!」
「速い!」
「なにあれ!」
シリューは相手を軽くかわす。
一人。
二人。
三人。
全員を翻弄する。
まるで風だった。
校庭が歓声に包まれる。
「すごい!」
「天才!」
シリューはそのまま走る。
そして――
ゴール前に到達した。
そこには一人。
ゴールを守る人。
シリューはフェイントを入れる。
右。
左。
守りの生徒がよろける。
そしてシリューはするりと抜けた。
誰も止められない。
そのまま――
ボールを蹴る。
ゴール。
歓声が上がる。
しかし――
すぐに止まった。
先生が目を丸くしていた。
周囲も静かになる。
シリューが振り向く。
「?」
ユウが言った。
「シリュー……」
アリューが額を押さえた。
「それ」
「味方のゴールだ」
シリューは固まった。
後ろを見る。
そこには――
アリューが守っているゴール。
つまり。
シリューは、
全員を華麗に抜き去り、
味方の守りをかわし、
完璧に自分のチームへゴールを決めた。
校庭が静まり返る。
そして次の瞬間。
大爆笑が起きた。
「ははははは!!」
「すげえ!」
「味方に決めた!」
ユウは笑いすぎて立っていられない。
アリューは肩を震わせている。
シリューだけが真顔で言った。
「……ルール」
「聞いてなかった」
先生が笑いながら言う。
「まずそこからだな」
校庭には、しばらく笑い声が響いていた。




