第43話 静かな余波
スタンピードの戦いから数日後。
街はようやく落ち着きを取り戻していた。
冒険者ギルドの奥の部屋で、ギルド長は机に向かっていた。
机の上には一枚の書類。
昇格申請書。
ギルド長はペンを走らせながら呟く。
「ふむ……」
「これは通るじゃろうな」
書いているのは――
赤翼のワイダー隊。
アリュー、シリュー、ユウ。
そしてワイバーンたち。
スタンピードを止めた功績は、明らかに異例だった。
本来ならAクラス冒険者に推薦されるレベルだ。
しかし、この街のギルドだけで決められる話ではない。
書類は王都のギルド本部に送られる。
正式な審査があるのだ。
ギルド長は書類を見直した。
「よし」
「一応、本人の許可を得ることにしておくか」
そう言って部屋の外に声をかける。
「おーい、呼んできてくれ」
しばらくして――
アリューたちがやってきた。
シリュー。
ユウ。
そしてグラナディスもいる。
ギルド長は書類を机の上に置いた。
「これじゃ」
「昇格申請書だ」
シリューが紙をのぞき込む。
ユウも横から見る。
しかし――
二人は首を傾げた。
「……?」
「……?」
字が多い。
難しい言葉ばかり。
結局、アリューが読むことになった。
アリューはしばらく黙って読んでいた。
そして顔を上げる。
「Aクラス推薦?」
ギルド長が頷く。
「そうじゃ」
「スタンピード止めたんじゃからな」
「本来ならそれくらいの評価になる」
しかしアリューは少し考えてから言った。
「……断る」
ギルド長が目を細める。
「ほう」
アリューは腕を組んだ。
「王都では目立ちたくない」
ギルド長は黙って聞いている。
アリューは続けた。
「ワイダーの生き残りがいたって知られたら、何されるかわからない」
アルフェリスが低く鳴く。
グラナディスが面白そうに聞いている。
ギルド長は小さく息を吐いた。
「まあ……」
「そういう事情もあるか」
そしてふと三人を見た。
アリュー。
シリュー。
ユウ。
そして言った。
「ところで」
「お前ら、字はどれくらい読める?」
シリューとユウが顔を見合わせる。
そして正直に言った。
「……あんまり」
ギルド長は苦笑した。
「やっぱりか」
書類を指で叩く。
「冒険者もな」
「字が読めないと損するぞ」
少し考えてから言った。
「学校に行け」
三人が同時に聞き返す。
「学校?」
ギルド長が頷く。
「まず識字じゃ」
「読み書きできんと、いろいろ不利じゃ」
そして続ける。
「校長には話しておく」
「入れるようにしてやる」
アリューは少し考えた。
「……わかった」
シリューも頷く。
ユウも小さく笑う。
「学校かぁ」
ギルド長は満足そうに言った。
「決まりじゃな」
「若いんじゃ、学べ」
その日の夕方。
アリューたち3人は、学校を見て、それから街を散策してから、家へ戻った。
門を開ける。
すると――
庭から湯気が立っていた。
三人は立ち止まる。
「……?」
裏庭へ回る。
そこには――
巨大な穴が掘られていた。
しかもかなり深い。
その底に――
お湯。
湯気がもくもく上がっている。
温泉だった。
その真ん中で。
グラナディスがのんびり湯に浸かっていた。
「ふぅ……」
気持ちよさそうに肩まで浸かっている。
しかも――
アルフェリス。
スノウェル。
ブモーは足湯。
ワイバーンたちも一緒に入っていた。
巨大な温泉。
ワイバーン温泉。
グラナディスがアリューたちを見る。
「おう」
のんびり言う。
「帰ったか」
アリューが呆然と聞く。
「……何してんだ?」
グラナディスは湯をすくって肩にかけた。
「温泉じゃ」
「掘った」
ユウが驚く。
「掘った?」
グラナディスが平然と言う。
「地下に温泉脈があったからな」
「少し掘れば出ると思った」
シリューが庭を見る。
完全に大浴場だった。
グラナディスが笑う。
「入るか?」
ワイバーンたちが気持ちよさそうに鳴く。
ユウが目を輝かせる。
ユウは服のまま温泉に入る。
「……入る」
アリューは額を押さえた。
「まあ……」
「いいか」
その日。
スタンピードを止めた英雄たちは――
庭の温泉でのんびりしていた。




