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赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


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第42話 青竜、街に降り立つ


 戦場の空気が変わった。

 空から降りてくる影。

 巨大な翼。

 青く輝く鱗。

 青竜グラナディス。

 その姿を見た瞬間――

 戦っていた全員が、固まった。

 冒険者。

 騎士団。

 魔法使い。

 そして魔物たちまで。

 誰も動けない。

 ただ空を見上げていた。

 竜がゆっくりと翼をはばたかせる。

 その一振りで風が吹き荒れる。

 地面の砂が舞い上がる。

 グラナディスは低く息を吐いた。

「ふむ……」

 その視線が戦場を見渡す。

 魔物たちの方へ向く。

 すると――

 最初に動いたのは魔物だった。

 ゴブリンが震えながら後ずさる。

 ウルフが尻尾を巻く。

 オークが武器を落とす。

 そして――

 逃げ始めた。

 一匹、また一匹と森へ戻っていく。

 誰も追わない。

 刺激しないように、静かに。

 まるで怒らせたくない相手の前から、そっと去るように。

 やがて魔物の群れは完全に森の奥へ消えた。

 戦場に残ったのは――

 人間たちだけだった。

 誰もが呆然としている。

 一人の冒険者がぽつりと呟く。

「……助かった?」

 騎士がその場に座り込んだ。

「生きてる……」

 別の冒険者も剣を落として、その場に座り込む。

 次々に人が膝をついた。

 極限の戦いから解放された瞬間だった。

 その時。

 グラナディスがゆっくりと降下した。

 巨大な影が地面を覆う。

 ドォン。

 大地が揺れる。

 青龍が戦場に着陸した。

 その隣に、アルフェリスも降りる。

 背からアリューとユウが飛び降りた。

 周囲の人々がざわめく。

「……あいつら」

「竜と一緒に来たぞ」

 その時。

 空からスノウェルが降りてきた。

 シリューだ。

 着地すると、すぐにアリューを見る。

「すごいやつ連れてきたな」

 アリューが笑う。

「だろ」

 しかしシリューはすぐに周囲を見る。

 倒れている冒険者。

 傷ついた騎士。

 疲れ果てた仲間たち。

 シリューは手を上げた。

「ヒール!」

 緑の光が広がる。

 傷が塞がる。

 血が止まる。

 また別の方向へ。

「ヒール!」

 さらに回復魔法。

「ヒール!」

 次々に魔法をかけていく。

 冒険者たちが驚く。

「すげえ……」

「回復が追いつく」

 シリューは息を切らしながらも魔法を続けた。

 そしてアリューはグラナディスを見る。

 巨大な青龍。

 戦場を見下ろしている。

 アリューが聞く。

「なぁ、グラナディス」

 竜がゆっくり振り向く。

「なんじゃ」

「これからどうするんだ?」

 グラナディスは少し考えた。

 腕……いや前足を組む。

 空を見上げる。

「ふむ……」

 しばらく沈黙。

 そしてぽつりと言った。

「……面白そうだな」

 アリューが首を傾げる。

「何が?」

 グラナディスが笑う。

「お前についていくの」

 その瞬間。

 竜の体から魔力が溢れた。

 圧倒的な圧力。

 空気が震える。

 周囲の人々が息を呑む。

 青い光が竜の体を包む。

 鱗が光になる。

 翼が崩れる。

 体が縮む。

 そして――

 そこに立っていたのは、

 一人の男だった。

 長い青髪。

 整った顔。

 目を見張るほどのスマートな筋肉。

 驚くほど立派なポコ〇ン。

 だが――

 素っ裸。

 周囲が一瞬、静まり返る。

 ユウが真っ赤になる。

「ちょ、ちょっと!」

 慌てて自分の上着を脱いで渡す。

「これ着て!」

 グラナディスは素直に受け取った。

 しかし――

 そのまま上に着た。

 胸から上だけ服。

 下は何もなし。

 股間が丸見え。

 アリューが思わず叫ぶ。

「違う違う!」

 すぐに服を引っ張る。

 そして腰に巻きつけた。

「こうだ!」

 グラナディスが感心する。

「おお、なるほど」

 ユウは服を見て言う。

「……もうそれ、あげるよ」

 周囲の冒険者たちは、まだ呆然としていた。

 竜。

 人間。

 仲間になる。

 そして――

 服の着方を教えられている。

 戦場は、さっきまでの地獄が嘘のように静かだった。



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