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赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


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第7話:白翼の誕生


 卵は、それぞれの家に丁寧に置かれた。

 藁をたっぷり敷き、その上にそっと横たえる。

 衝撃が伝わらないように、三人は慎重に扱った。

 小さな生命のための寝床。どの家も、卵が安全で温かい場所に置かれるよう工夫されていた。

 アリュウはその日も朝から訓練に励む。

 地下室で見つけた剣を手に取り、壁に向かって斬り込みの動作を繰り返す。

 シリューも負けじと短剣を振り、ユウも細い短剣で素早く突きの練習をしていた。

 互いに声を掛け合い、時に指摘し合う。

 息は荒く、腕や肩の筋肉が日ごとにしなやかに力を増していくのがわかる。

 アルフェリスは相変わらず空を駆け回っていた。

 アリュウが背に乗ってみようと試みるも、まだ背中が小さく、翼の邪魔になるためすぐに降りるしかなかった。

 しかし、赤翼の成長は日々目に見えて早くなっていた。

 空を飛ぶと、トンビやワシなどの鳥はもちろん、大型のワイバーンを見つけると競争するかのように駆け抜ける。

 風を切る音、翼の振動、空気を裂くスピード感――アリュウは遠目に見て、思わず笑みをこぼす。

「……すごいな、アルフェリス」

 シリューとユウも顔を上げ、空を見上げる。

 小さな赤翼は、まだ幼い身体でありながら、まるで風そのものになったかのように滑空し、急旋回で大型ワイバーンをかわしながら飛ぶ。

 見ているだけで、胸が熱くなる。

 そんな中、シリューの管理する家から、かすかな泣き声が聞こえてきた。

 小さな声で、ひゅうひゅうとした音が混じっている。

 三人は顔を見合わせた。

「……もしや」

 アリュウが小さく呟く。

 ユウも息をのむ。

 赤翼の卵が孵ったのかもしれない。

 三人は無言でシリューの家に駆け寄る。

 シリューが恐る恐る家の扉を開ける。

 室内にはまだ朝の光が淡く差し込み、藁が敷かれた卵の上に小さな影がある。

 ひび割れた殻。そこから、ついに小さな頭がひょっこりと顔を出した。

 白い。

 珍しい白い個体だった。

 光を受けて、羽毛が柔らかく輝いている。

 シリューは思わず息をのむ。

 卵の持ち主がアルフェリスでなくとも、この新しい生命の輝きには、誰もが心を奪われる。

 小さなワイバーンはまだヨチヨチしていて、首をかしげながら周囲を見渡す。

 初めての光と音に驚き、かすかに鳴き声をあげる。

 その声は不思議と柔らかく、アルフェリスの鋭い鳴き声とは対照的だった。

「……かわいい……」

 シリューは無言で卵の破片を避け、ワイバーンを抱き上げる。

 小さな翼が震え、尾がちょんと動く。

 まるで初めて世界に触れたばかりの、柔らかく新鮮な存在。

 ユウとアリュウも静かに見守る。二人の目には驚きと羨望の光が宿っていた。

「名前……どうしよう」

 アリュウが口を開く。

 白い翼を見つめ、心の中で考える。

 赤翼のアルフェリスが圧倒的に速く、空を駆ける象徴なら、この白い個体はきっと別の力を持つだろう。

 シリューも小さくうなずく。

「この子も、僕たちの仲間になるんだね」

 三人は交わす視線の中に、決意と喜びを感じた。

 小さな赤と白の翼――二頭のワイバーンを前に、訓練や冒険がさらに現実のものになることを、心の奥で知っていた。

 アルフェリスが外で低く鳴く。

 まるで「仲間が増えたな」と言うように。白いワイバーンも小さく声を返す。

 赤と白、二色の翼。

 これからの旅の始まりを告げるように、空気が清々しく震えた。

 三人はわずかに微笑み、そして決意を新たにする。

 まだ先は長い。父の行方、王都への復讐、そして仲間の成長――すべてはこの日、この瞬間から動き始めるのだった。


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