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赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


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第8話:雪白のスノウィルと成長の音


 朝、まだ淡い光が村を包むころ、シリューが興奮気味に叫んだ。

「見て!白い子の名前、決めた!」

 ユウとアリュウが振り返る。

 小さな卵のそばに、雪のように白い翼の小さなワイバーンが顔をのぞかせていた。

「スノウィル……」

 アリュウは少し微笑む。

 口に出すだけで、冷たい空気と柔らかい雪の感触を思わせる、凛とした響きだった。

 ユウも小さくうなずいた。

 スノウィルはまだ羽が濡れていて、体も小さく弱々しい。

 だが、その目は好奇心に満ち、周囲をじっと見つめる。

 アルフェリスは目を細めて、まるで親のようにスノウィルを見守り始めた。

 翼をばたつかせ、首を伸ばして小さな卵の周りをうろうろし、守るかのように近くを飛ぶ。

「アルフェリス……さすがだな」

 アリュウは微笑む。

 赤翼はすでに空を駆け回ることが得意で、スノウィルの世話を始めるときも、まるで空の指導者のように振る舞う。

 毎日の食事もアルフェリスが運んでくる。

 小さな蛇や朝のうちに捕まえた鳥を、口にくわえてスノウィルのもとへ運ぶ。

 小さな体に一生懸命に運ぶ様子を見て、シリューとユウも思わず笑顔になる。

 しかし、ユウの卵――まだ孵化していない赤翼――が少し不安そうだった。

 何日も静かにしており、ユウは心配で仕方がない。

 ある日、ユウは卵に耳を当ててそっと耳を澄ませた。

「……ブムムム!」

 低く、しかし力強く、体の奥から響くような音が聞こえた。

 まるで息を吸い込むたびに卵全体が振動しているようだ。

 ユウはびっくりして、少し後ずさりする。

「ねえ、アリュウ……どうしよう……」

 アリュウは落ち着いた声で答える。

「……わかった、ちょっと待って。地下の本を見に行こう」

 三人は急いで地下室へ降りる。

 古い書物が山のように積まれた部屋の中で、アリュウは巻物や本をめくり、卵に関する記述を探す。

 何百年前に書かれたものもあるが、どれも古く、文字が擦れて読みにくい。

 しかし、辛抱強く探すと、稀に「卵から音が聞こえる場合がある」との一文を発見する。

「……なるほど」

 アリュウはつぶやく。

「書かれてはいないけど、これは……成長音かもしれない」

 卵の中のワイバーンが、体を動かすたびに小さな振動や音を発しているのだ。

 力強く、しかし自然なリズムで響くその音は、決して危険を意味するものではない。

 生命が育っている証拠。

 ユウは少し安心したように息をつく。

「そっか……生きてるんだ……」

 スノウィルを見上げる。

 赤い翼のアルフェリスは隣で優しく鳴き、まるで「大丈夫だ」と言っているかのようだ。

 三人と二頭のワイバーンは、初めてこの日、成長の奇跡を共有した。

 アリュウはふと考える。

「……父さんも、きっと生きてる。アルフェリスもスノウィルも、そしてユウの卵も、みんな無事に育つんだ」

 この感覚は、冒険の始まりに対する小さな希望の光。

 未来はまだ見えない。

 王都への復讐も、父を探す旅も、遠い目標のままだ。

 それでも、仲間たちとともに命が育まれていることに、胸の奥が少し温かくなる。

 その日、アルフェリスは空高く飛び上がり、スノウィルの周りを旋回する。

 羽ばたきの音が風を切り、朝の光に赤と白の翼が輝く。

 小さな村には、久しぶりの賑やかな鳴き声と希望の空気が戻った。

 ユウの卵の成長音も、力強く、確かに響いている。命の鼓動が、彼らに勇気を与えた。

 アリュウは心の中でつぶやく。

「……行こう。これから、もっと大きな冒険が待ってる」

 小さな赤と白の翼。未来の仲間。彼らの物語は、今まさに動き出していた。



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