第38話 魔素の噴出口
アルフェリスは空を裂くような速度で森の上を飛んでいた。
背中にはアリューとユウ。
街はすでに遠く、小さく見える。
しかし空にはまだ敵がいた。
ハーピーの群れ。
ちょうど街へ向かって飛んでいる最中だった。
アリューがちらりと横目でそれを見る。
「……ちょっと手伝っていくか?」
ユウが振り向く。
「うん」
アルフェリスは速度を落とさない。
むしろさらに加速しながら、ハーピーの群れのすぐ横を通り抜けようとしていた。
その一瞬。
ユウが弓を構える。
爆発の魔石が赤く輝く。
矢に魔力を集中させる。
「いくよ!」
矢が放たれた。
アルフェリスはそのまま高速で通り過ぎる。
矢は群れの中心へと吸い込まれていった。
そして――
ドォォォン!!
空が揺れた。
巨大な爆発がハーピーの群れの中心で弾けた。
爆風と炎。
悲鳴。
羽が舞い散る。
二十体以上のハーピーがその場で吹き飛ばされ、空から落ちていった。
アリューが笑う。
「おお、すげえ」
しかし残ったハーピーたちは怒り狂った。
甲高い叫び声を上げる。
そして一斉にこちらへ向かってきた。
「……怒らせた」
ユウが言う。
後ろを振り返る。
三十体ほどのハーピーが追いかけてきていた。
だがアリューは気にも留めない。
「問題ない」
アルフェリスが翼を大きく広げた。
次の瞬間。
ドンッ!
空気が爆ぜる。
アルフェリスは一気に加速した。
景色が流れる。
森が後ろへ飛んでいく。
ハーピーたちは必死に追いかけてくるが、距離はどんどん離れていく。
ユウが振り返る。
「もう小さい」
ハーピーたちは黒い点になり、やがて見えなくなった。
アリューが前を指さす。
「見えてきた」
森の奥。
山がそびえていた。
しかしその山の周囲の空気は、明らかに異様だった。
紫色の霧。
魔素。
濃密な魔力が煙のように立ち上り、空気を歪ませている。
空気が重い。
冷たい。
生き物の気配が消え、森は不気味な静けさに包まれていた。
ユウが小さく呟く。
「気持ち悪い……」
アリューも眉をひそめた。
「魔力が濃すぎる」
アルフェリスも警戒しているのか、翼の動きが少し慎重になった。
山の頂上へ向かうかと思われたが、違った。
紫の魔素は、頂上ではなく――
山の横。
岩肌に開いた巨大な穴から、滝のように流れ出していた。
紫色の魔素が、川のように下へ流れている。
アリューが言う。
「……あれだ」
魔力の噴火口。
魔物を生み出している原因。
ユウは弓を握った。
「上を崩せばいいよね」
穴の真上は岩の斜面になっている。
そこを崩せば、岩が落ちて穴を埋めるはずだった。
アリューが頷く。
「一発で決めろ」
ユウは深く息を吸った。
そして矢を構える。
魔石が赤く輝く。
ユウは目を閉じた。
全身の魔力を矢に流し込む。
普段とは比べ物にならない量だった。
弓が震える。
空気が唸る。
アルフェリスの背の上で、アリューは思わず言った。
「……すごい魔力だ」
ユウが目を開いた。
「いくよ」
矢が放たれた。
山の斜面へ一直線。
そして――
ズドォォォォォン!!
山が揺れた。
凄まじい爆発。
岩が砕け、崩れ落ちる。
巨大な岩塊が次々と滑り落ちていく。
そして――
ドドドドドドド!!
岩が穴へ落ちた。
紫の魔素が一瞬吹き上がる。
だがすぐに、岩で完全に塞がれた。
穴は消えた。
紫の魔素の流れも止まる。
周囲の空気が、少しずつ静かになっていく。
ユウが息を吐いた。
「……やった」
アリューが笑う。
「完璧だ」
アルフェリスが低く鳴いた。
しかしその時だった。
山の奥から――
ゴゴゴゴゴ……
低い振動が響いた。
地面が震える。
岩の奥から、何か巨大な気配が動いた。
アリューが眉をひそめる。
「……なんだ?」
次の瞬間。
崩れた岩の奥から、ゆっくりと――
巨大な影が動いた。




