第37話 スタンビード
昼過ぎのことだった。
街の見張り砦から、突然赤い煙が空へ立ち上った。
のろし。
それは緊急事態を知らせる合図だった。
同時に、ギルドの中で淡い光が弾ける。
机の上に置かれた魔法陣が輝き、一枚の紙が現れた。
転送魔法の手紙だった。
職員が慌ててそれを開く。
そして顔色を変えた。
「……ギルド長!」
部屋の空気が一瞬で張り詰める。
ギルド長が紙を受け取り、読み上げた。
「森の奥より大量の魔物確認」
「陸上……約五百体」
周囲が凍りつく。
さらに読み続ける。
「空中……約百体」
職員が思わず声を上げた。
「そんな数……!」
ギルド長の顔は険しかった。
「スタンピードだ」
その言葉が落ちた瞬間、ギルド内が騒然となった。
スタンピード。
魔物の大暴走。
大量の魔物が一斉に押し寄せ、街や村を飲み込む最悪の災害。
そして手紙の最後には、さらに恐ろしいことが書かれていた。
ギルド長が低く呟く。
「魔力の噴火口……」
アリューが聞き返す。
「噴火口?」
ギルド長は頷いた。
「森の奥で魔力が噴き出している」
「そこから次々と魔物が生まれているらしい」
シリューが息を飲んだ。
「つまり……」
ユウが言う。
「倒しても、また出てくる?」
ギルド長は重く頷いた。
「噴火口を塞がない限り、魔物は増え続ける」
その時だった。
外から兵士が駆け込んできた。
「騎士団到着!」
続いてもう一人。
「冒険者たちも集まりました!」
街の防衛戦が始まろうとしていた。
広場には人が集まっていた。
冒険者三十名。
騎士団五十名。
しかしそれでも、五百体の魔物には足りない。
重い沈黙が流れる。
そのときアリューが言った。
「噴火口を壊せばいいんだろ?」
ギルド長が顔を上げる。
「できるのか?」
アリューは笑った。
「爆発なら得意なのがいる」
ユウが胸を張る。
「任せて」
アルフェリスが翼を広げた。
赤い翼が太陽の光を受けて輝く。
アリューは言った。
「俺とユウで行く」
シリューが驚く。
「二人で?」
「空は任せろ」
アリューは笑う。
「アルフェリスの速さなら、噴火口まで一気に行ける」
ユウも頷く。
「矢もたくさんあるし、魔力もたくさんある」
しかしシリューは少し考えた。
「……わかった」
スノウェルの背に乗る。
そしてブモーを見た。
「僕は街を守る」
ブモーはどっしりと地面を踏みしめた。
重く、頼もしい音だった。
シリューは広場を見渡す。
冒険者三十人。
騎士団五十人。
皆、不安そうな顔をしている。
しかしシリューは静かに言った。
「大丈夫」
「僕たちがいる」
スノウェルが翼を広げる。
ブモーが低く唸る。
その姿に、兵士たちの顔に少し勇気が戻った。
その時。
遠くの森が揺れた。
黒い波が現れる。
魔物の群れ。
ゴブリン。
オーク。
ウルフ。
そしてオーガまで混ざっている。
地面が揺れるほどの大群だった。
空にも影が広がる。
ハーピー。
巨大な魔鳥。
百体近い空の魔物。
騎士の一人が呟いた。
「……地獄だ」
その時、アリューがアルフェリスの背に飛び乗った。
ユウも後ろに乗る。
アルフェリスが翼を大きく広げた。
赤い翼が燃えるように輝く。
アリューが振り向く。
「シリュー!」
シリューが頷く。
「街は任せて」
ユウが笑う。
「すぐ戻る!」
次の瞬間――
アルフェリスが爆発のような速度で空へ飛び上がった。
音の壁を破るような加速。
赤い閃光のように森へ向かう。
その背中を見送りながら、シリューは深く息を吸った。
そして剣を抜く。
「みんな!」
冒険者と騎士たちが振り向く。
「ここが街の最後の防衛線です」
魔物の群れが迫る。
地面が震える。
シリューは言った。
「迎え撃ちます!」
スノウェルが空へ舞い上がる。
ブモーが地面を踏みしめる。
そして――
五百体の魔物の大群が、街へと押し寄せた。




