第34話 赤翼のワイダー誕生
その日の夜。
街の中央広場は、信じられないほどの賑わいに包まれていた。
もともと人口千人ほどの小さな街だ。普段は静かな場所で、大きな祭りなど滅多に開かれない。
しかし今夜は違った。
理由はただ一つ。
B級討伐者の誕生。
しかも三人同時という、前代未聞の出来事だった。
広場には急ごしらえの舞台が作られ、松明が並び、露店まで出ている。
焼いた肉の匂い、酒の香り、甘い菓子の香りが夜風に混じり、街の人々は皆、興奮した様子で騒いでいた。
「すげえぞ!」
「新人でB級だって!」
「しかもワイバーンに乗ってるらしい!」
子供たちは走り回り、大人たちは酒を片手に盛り上がっている。
広場の端では、楽団が太鼓と笛を鳴らし始め、誰かが踊りだした。
それにつられて周りの人々も踊り始め、いつの間にか完全なお祭り騒ぎになっていた。
その中央の舞台に、アリュー、シリュー、ユウの三人が立っていた。
三人の後ろには、それぞれのワイバーン。
赤翼のアルフェリス、白翼のスノウェル、そして赤黒い巨大なブモー。
三匹とも、どこか誇らしげに胸を張っている。
ギルド長が大きな声で宣言した。
「本日、この街で初めてとなるB級討伐者が誕生した!」
歓声が爆発した。
「おおおおおお!」
「すげえ!」
「英雄だ!」
人々の視線が三人に集まる。
アリューは少し照れくさそうに頭を掻いた。
するとギルド長が続けた。
「そこでだ。討伐者には通常、パーティ名をつけてもらう」
「これから三人は一つの討伐団として活動することになる」
「名前は決めてあるか?」
三人は顔を見合わせた。
ほんの一瞬だけ沈黙。
しかしアリューは迷わなかった。
「赤翼のワイダー」
即答だった。
シリューが微笑む。
「いいね」
ユウも頷いた。
「かっこいい」
背後のワイバーンたちも、まるで理解したかのように翼を大きく広げる。
アルフェリスが低く鳴いた。
スノウェルも嬉しそうに翼を揺らす。
ブモーは堂々と胸を張っている。
広場から再び歓声が上がった。
「赤翼のワイダー!」
「いい名前だ!」
「覚えやすい!」
こうして三人のパーティ名は、正式に決まった。
赤翼のワイダー。
その名は、この日一晩で街中に広がることになる。
やがて広場に、一台の豪華な馬車が到着した。
人々が道を開ける。
降りてきたのは、この街の領主。
ザルダル子爵だった。
重厚なマントを羽織った中年の貴族で、三人を見ると満足そうに頷いた。
「見事だ」
子爵は舞台に上がり、三人の前に立った。
「この街では初めてのB級討伐者だ」
「その功績を称えよう」
従者が箱を持ってくる。
箱が開かれた。
中には金色の輝き。
金貨二百枚。
広場がどよめく。
「二百枚!?」
「家が買えるぞ!」
「すげえ報酬だ!」
子爵は微笑んだ。
「さらにもう一つ」
三人は首をかしげる。
「君たちには、ワイバーンを常駐できる一軒家を用意した」
今度は三人が固まった。
「え?」
「家?」
「ほんとに?」
子爵はゆっくり頷く。
「この街の外れにある大きな家だ。庭も広い」
「ワイバーン三匹でも問題ない」
三匹のワイバーンが同時に嬉しそうに鳴いた。
広場は拍手と歓声に包まれる。
しかし子爵は、少し真面目な顔になった。
「実は頼みがある」
三人が姿勢を正す。
「この街の周囲には魔物が多い」
「できれば君たちに討伐してほしい」
アリューは少し困った顔をした。
「実は……」
シリューが言葉を続ける。
「僕たちは旅の途中なんです」
ユウも頷いた。
「父親を探していて」
子爵は顎に手を当て、少し考えた。
そして言った。
「それなら、なおさらだ」
三人は首をかしげる。
子爵は続けた。
「討伐者になれば情報が入る」
「ギルドには各地の情報が集まるからな」
「父の手がかりも見つかるかもしれん」
三人は顔を見合わせた。
確かに、言われてみればその通りだった。
さらにアリューが言う。
「……家、もらったしな」
シリューが苦笑する。
「断りにくいね」
ユウも頷いた。
「ちょっとだけなら」
こうして三人は決めた。
「わかりました」
アリューが子爵に向かって言う。
「しばらく、この街に滞在します」
子爵は満足そうに笑った。
「頼もしい」
広場ではまだ祭りが続いている。
踊る者。
歌う者。
酒を飲む者。
そして夜空の下、三匹のワイバーンが翼を広げていた。
こうして――
B級討伐団「赤翼のワイダー」
その最初の拠点が、この小さな街にできたのだった。




