第23話:ワルサルボグラーデ
草むらの中で、三人はじっと様子をうかがっていた。
オーガは五匹。
巨大な身体でグリフォンの死体を囲み、肉を引き裂いている。
骨を砕く音。
肉を裂く音。
森の空気が重くなる。
そのとき、アリュウの頭の中に、昔読んだ本の一節がよみがえった。
――オーガは非常に凶暴。
――しかし上下関係が厳しく、統制が取れている。
――強い者が長となり、他は従う。
――長に勝てば、その者が新しい長になる。
そしてもう一つ、書かれていた言葉。
「ワルサルボグラーデ」
それはオーガの言葉で――
「タイマンはろうぜ」
という意味だった。
アリュウは小声で二人に言った。
「……方法がある」
シリュウとユウが顔を寄せる。
アリュウは本の内容を説明した。
「もし一対一で勝てば、俺が長になれる」
二人の目が大きくなる。
「ちょっと待って、それって……」
「危険すぎるよ」
ユウが言う。
だがアリュウは静かに首を振った。
「でも、五匹と戦うよりはましだ」
確かにそうだった。
まともに戦えば、五匹のオーガ相手では危険すぎる。
しかし長を倒せば、他のオーガは従う可能性がある。
アリュウは深く息を吸った。
「俺が行く」
シリュウが腕を掴む。
「アリュウ……」
ユウも言う。
「死ぬかもしれないよ」
アリュウは少し笑った。
「覚悟はしてる」
そして立ち上がった。
草むらからそっと出る。
一歩。
また一歩。
オーガたちへ近づいていく。
シリュウとユウは息を止めて見守る。
オーガの背中が近づく。
巨大な筋肉の塊。
腕は丸太のようだ。
そのとき――
一匹が振り向いた。
目が合った。
赤黒い目。
だが――
オーガは動かなかった。
驚きもしない。
ただ淡々とグリフォンの肉を切り裂き続けている。
まるで人間の存在など、どうでもいいかのように。
アリュウは数歩進み、立ち止まった。
心臓が強く鼓動する。
そして口を開いた。
「ワルサルボグラーデ」
森の空気が止まった。
オーガたちの手が止まる。
五匹の巨体がゆっくりと振り向いた。
赤い目が、アリュウを見つめる。
次の瞬間――
一匹の巨大なオーガが立ち上がった。
他の四匹よりも明らかに大きい。
3メートル近い巨体。
腕は岩のように太い。
それがアリュウの前に歩み出た。
地面が震える。
ドスン。
ドスン。
オーガはアリュウを見下ろした。
そして――
ニヤリと笑った。
戦いが始まろうとしていた。




