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赤翼のワイダー  作者: 忍絵 奉公


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第18話:水底修行 ― 宇宙とつながる瞬間


 魔力修行が始まって数日。

 ザックルは腕を組み、三人の様子を黙って観察していた。

 アリュウは剣にわずかな雷を宿し、シリューはかすかな回復光を出し、ユウも微かな反応を見せている。

 だが、ザックルは首を振った。

「遅い」

 その一言に三人は顔を見合わせる。

「普通の修行では数年かかる。じゃが、お前たちには時間がない。そこで――」

 ザックルは杖を持ち上げ、村の外れを指した。

「池じゃ」

 三人は首をかしげる。

 池は小さく、静かな水面をたたえている。秋空の下、冷たい風が水面を揺らしていた。

 ザックルはゆっくり言う。

「水の中に潜れ。息を止め、魔力を練れ」

「え?」

「無呼吸状態は、肉体の意識を消す。集中力が極限まで高まり、精神が広がる」

 ザックルは遠くの空を見上げた。

「人の意識は、本来もっと広い。無意識の奥で、世界――いや宇宙とつながっておる」

 三人は理解できない顔をする。

「理屈はあとじゃ。やってみろ」

 水はすでに秋の冷たさを帯びていた。

 しかし三人は迷わない。

「……よし、やろう」

 アリュウの合図で三人は池に入り、深呼吸をしてから潜った。

 冷たい水が身体を包む。

 息を止める。

 魔石を握る。

 魔力を意識する。

 最初はすぐに苦しくなり、水面へ上がった。

 2回、3回、10回。

 何度も潜る。

 息を止める。

 意識を集中させる。

 15回目。

 20回目。

 身体は震え、肺は悲鳴を上げる。

 しかしザックルは静かに言う。

「まだじゃ」

 30回目。

 そのときだった。

 水の中で、三人は同時に奇妙な感覚を覚えた。

 息の苦しさが消えた。

 身体の感覚が遠くなり、冷たい水温が飛んだ。

 暗い水の底が、まるで夜空のように広がる。

 星のない宇宙。

 しかし無限の広がり。

 その空間に、自分の意識が溶けていく。

 そしてどこか遠くから、力が流れ込む感覚。

 ――魔力。

 三人は同時に水面へ浮かび上がった。

「はぁ……!」

 激しく息を吸う。

 だがその瞬間、ザックルの目が鋭く光った。

「……成功じゃ」

 三人の身体から、はっきりと魔力の波が出ていた。

「今の感覚、覚えておけ。お前たちの魔力は――」

 ザックルは驚きと笑みを浮かべた。

「もう五割に達しておる」

 三人は顔を見合わせる。

 アリュウは剣を抜いた。

 集中する。

 魔石に魔力を流す。

 バチッ!

 剣の先から、小さな雷が弾けた。

 今度は確かに“雷”だった。

 シリューが手を広げる。

 緑の魔石が光り、やさしい光が広がる。

 半径一メートルほどの範囲に、柔らかな回復の光が満ちた。

「すごい……」

 ユウは弓を構えた。

 魔石に魔力を流す。

 オレンジ色の光が集まり、小さな玉になる。

「いくよ!」

 ユウがそれを放つ。

 オレンジの球は地面に当たり――

 ドンッ!

 半径二メートルほどの爆発が起きた。

 土と枯葉が舞い上がる。

 三人は目を見開く。

 ザックルは静かに笑った。

「それが……魔石の力じゃ」

 空ではアルフェリスが大きく旋回し、ブモーが興奮して鳴き、スノウィルが嬉しそうに跳ね回っている。

 三人は互いに顔を見て、笑った。

 魔石の力は、ついに本物になり始めたのだった。



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