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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第一冊 桜のこより

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2/12

神楽書店



 JRの中央出口を出て右に進み、駅を出ると、まず目に入るのは、真っ直ぐに延びた道路と真っ白な姫路城だ。結構遠いのに、姫路城の存在感は半端ない。


 世界遺産だからね。それに、何年も掛けて修復してたし。終わった当初は、あまりにも真っ白過ぎて驚いたけど、今はもうそれが当たり前のようになってるから、不思議だよね。 


 北口から出て直ぐ写真スポットになっているから、観光客の大半は立ち止まる。中には、二階から写真撮ってる観光客もいるよ。


 世界遺産になってから開発が一気に進んで、映画館が入った複合施設が出来たり、ホテルが出来たり、次々に色んな物が出来てる。


 まぁでも、商店街とかはあまり変わってはないけどね。百貨店がなくなってマンションになったぐらいかな。


 そんな街中を、「さっむ〜」と呟きながら、スーツケースや大きな鞄を抱えた旅行者達の脇を抜け、私、神谷(かみや)佑樹(ゆうき)は木枯らしに身を竦めながら、早足で家路を急いでいた。


 ここで訂正しておくけど、佑樹って名前のせいで、男性だと勘違いされる事が多い。生まれた時から、性別は女だから、そこは間違えないでね。


 なので今日の服装は、黒のタートルネックのセーターに紺色のショート丈のダッフルコートにデニム。肩まで伸ばした黒髪。化粧はほんの少し。


 友人達は、よく十人中半数以上は振り返る容姿をしているって言うけど、それはかなり甘いと思う。どこからどう見ても、平凡だからね。毎日鏡を見ている私が言うんだから、間違いないわ。


 実はそう思っているのは本人だけで、今も木枯らしが吹く中、颯爽と歩く姿は人目をひいていた。だけど、本人は全く、その視線には気付いていない。


 家までバスを利用したら、五分ぐらいで着く距離だけど、徒歩では十五分程。待ってる間に帰れるので、どんなに寒くても私は歩いてる。もう少し遠かったら、バスを利用するか悩むけどね。


 そんな中途半端な場所に、私の家はあるの。


 姫路城の隣に護国神社があって、その護国神社の裏手側に小さな商店街があるの。利用者は限られてるけどね。その商店街と護国神社を繋ぐ裏道から少し外れた場所に、一軒の本屋がある。


 本屋の名前は〈神楽書店〉。


 古本屋をちょっと大きくしたような、こじんまりとした本屋。


 木造のお店で、店内の本が自由に読めるように、小さなテープルと椅子がある。もっぱら、利用しているのは私とご近所さんだけどね。


 売上よりも趣味で営んでいるような、そんな感じのお店。その二階に、私は一人で住んでいた。


 それは、あくまで表向きの話。

 

 実際は、同居人がいる。それも複数。皆、私的には家族だと思っているけどね。かなり変わった同居人なの。でもね、とても優しくて温かい心を持っている。人の分類には入らない方達だけどね。


 元々、この本屋は臼木(うすき)神楽(かぐら)という女性が営んでいたの。同居人さん達はそのお手伝いをしていたらしい。いつからかは知らないけどね。


 神楽さんが、私に本屋を託して出て行った後も、私のサポートを色々してくれてるの。とても、心強い存在だよ。同居人さん達がいなかったら、私はマジで途方に暮れていたわ。想像するだけで、冷や汗が止まらなくなるから。


 神楽さんに本屋を託されたのが、二年前。


 そして、私が神楽書店に来たのは、三年前。


 神楽さんが出て行くまでの一年間、みっちりと扱かれたよ。何度も、お花畑を見たからね。ほんと、冗談じゃなく。


 当時は、何故そこまで厳しくするのか、よく分からなかったけど、今思えば、神楽さんは出て行くタイミングを、ずっと計っていたのだと思う。優柔不断ぽいけど、責任感ある人だからね、本屋を放って行く訳にはいかなかったし、閉める事も難しかった。


 そんな時、私が神楽書店に来た。

 

 神楽さんにとって、私はまさに渡りに船だったに違いない。


 神楽書店を誰よりも大事にしている神楽さんが、私に本屋を託した理由は、大事な大事な人を探すため。


 神楽さんがいなくなっても、同居人さん達やお客さん達は、特に驚く事はなかった。反対に、「よく一年もったもんだ」と言ってたよ。


 神楽さんが、そこまて大切に想う人だもの、いつか再会出来たらいいなと、心から思う。それで、もし出会えたなら、訊いてみたい。神楽さんとの出会いをね。だって、興味あるもの。あの、神楽さんだからね。


 そんな訳で、色んな人達に助けられながら、今日も私は本屋の仕事をなんとかこなしている。


 寒空の中、知り合いの古本屋から戻って来た私は、クローズになっていた看板を裏返すと、ドアを開け中に入った。


 

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