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護国神社の隣にある本屋はあやかし書店  作者: 井藤 美樹
第一冊 桜のこより

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10/12

死神と付喪神(1)



 久し振りに彼が神楽書店を訪れたのは、曖昧に言葉を濁した日の午後だった。


「どうしたのですか? (はく)さん。一段と難しい顔をして」


 普段は、何が起きても無表情なのに、この日は珍しく眉間に深い(しわ)を刻んでいる。どんな表情をしても、美形だから様になるわね。だけど反対に、いつも以上に迫力があり過ぎて少し怖い。


 元々、無表情プラス声のトーンも変わることがない方だから、感情が読みにくい。そのせいで、初めて会った時、私は白さんを怖がった。威圧感が半端なくてね、置きたまま金縛りになるっていう、貴重な体験をしたよ。


 でも今は、責任感が強くて生真面目な方だと知っている。生真面目過ぎて無表情になったらしいけど。だとしたら、少し不器用な方なのかもしれない。兎に角、とても良い方だ。


〈死神様〉だけどね。


 それに、よく観察すれば、ちゃんと表情はあるみたい。


 そうそう、白さんは、ここら一帯を管轄している死神様の主任だ。結構、偉い立場の方なの。


〈死神様〉の主な仕事は、死者の魂を三途の川まで連れて逝く事と、地縛霊や悪霊を狩る事だ。


 因みに、亡者の預り金は地獄から出ている。という訳で、生きている私とも、それなりの面識があるの。


 だからといって、白さんか仕事以外で神楽書店に立ち寄る事はまずない。個人的な付き合いがないなら、ここに来たのは仕事のためだ。


(……この雰囲気、かなりヤバい案件のようね)


『亡者の一人が行方不明になった』


 想像以上にヤバかった。


「えっ!? それって、懲罰ものよね」


(始末書で済めばいいけど、あの補佐官様相手じゃ無理ね)


『『御愁傷様〜〜』』


 慰めるのもなんだし、反応に困っていると、少し馬鹿にしたような幼い声が店内に響いた。


 見た目五歳児の双子が仲良くハモっている。勿論、この双子も付喪神様だよ。この子達の本体は草履(ぞうり)なの。だから、常に一緒にいるわ。


『白殿とここでお別れとは、悲しいですわ』


 これは矢那さん。


『馬鹿な奴だ』


 白い(ひげ)を胸元まで伸ばした小柄なお爺さんが、神妙な表情をしながら言う。


 身重は約一メートルぐらい。ラノベでいうドワーフみたいな感じ。着ているのは中華風な着物だけどね。神楽書店に住んでいる付喪神様の中で、一番の古株さんだ。本体は、小さな桐箱なの。


「成仏して下さい」


 最後は勿論、私だ。


 全員、補佐官様の事をよく知っているからね。好き勝手言っているようだけど、強ちそうでもない。補佐官様の前に立つと皆、直立不動になるの。基本、とても自由な付喪神様でもそうだからね。


 付喪神様は人間のような(しがらみ)に縛られてはいない。まだ、地獄で働く獄卒や死神様の方が人間に近いかもしれない。


『逃がしたのは、俺達じゃない』


 皆に散々な事を言われた白さんは、やや憮然な表情で答える。


『『へ〜〜それは残念』』


『白殿のお美しい顔が無事で良かったですわ』


『白の潰れた顔が見たかったのに、非常に残念だ』


 付喪神様の散々な言い様に、私は苦笑する。白さんの眉間の(しわ)が更に深くなる。


 何だかんだと悪態を吐きながらも、付喪神様は白さんの事をかなり気に入っている。コミニケーションの取り方が独特なの。そうでなければ、そもそも、からかいに来ないからね。当然、姿も見せない。


 白さんもその事が分かっているので、サラリと流している。傍で見てて思うのだけど、どこか諦めてるような気がするのよね。

 

「……それで、どうして白さんがここに? もしかして、この管轄に逃げ込んだのですか?」


『相変わらず察しがいいな、佑樹は』


 苦笑しながら、白さんは答える。その視線が、一瞬、店内の隅で詩集を読んでいる横井春に向けられた事に気付く。


(どうして、彼女を見たの? 管轄内に逃げ込んだだけで、白さんがここに来たの? 主任である白さんが。おかしい)


 次々に疑問が浮かぶ。そして、ふと慶介の話を思い出す。


(まさか!?)


 ある考えが頭を過った。私は白さんの腕を掴むと、彼女から距離をとった。


「白さん、誰が逃げ出したの?」


 白さんに身体を寄せ、ギリギリ彼が聞こえるぐらいの小さな声で、私は尋ねた。



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