第64話:一番
文化祭の準備が始まった。私のクラスは話し合いの結果おしゃれなフォトスポットを作ることになった。それぞれの役割を決めて、あとは準備するだけ。午前中は授業をして、午後から準備。お昼休みのときだけこっそり抜けて紗凪さんと二人でお弁当を食べている。
「恵那ちゃんのクラスはどう?順調?」
「はい。紗凪さんも来てくださいね。私は初日も二日目も最初にシフト入れたので、そこから先はずっと二人で回れますよ。」
「そっか。楽しみ。」
紗凪さんが卵焼きをあーんしてくれた。最近は自分で作るようになったらしい。美味しい。
「美味しいです。最近毎日作ってますよね?何かあったんですか?」
「恵那ちゃんのためだよ。」
紗凪さんが恥ずかしそうに言った。お付き合いし始めてから紗凪さんはずっとこんな感じ。今まで隠していたものを隠さなくなっただけとは思えないくらい。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると慌ててお弁当箱を片付けて立ち上がる。教室に戻ろうとすると紗凪さんに呼び止められた。
「待って。今日の分、まだ。」
軽くちゅっとしてから教室に戻る廊下を歩く。自分がここまでになるなんて思っていなかった。前まではいわゆるバカップルとか嫌いだったのに。
「あ、恵那いた。紗凪先輩と?」
「うん。もしかして何か困ってた?」
「ううん、私たちもさっきまで喋ってご飯食べてたから。そろそろ作業始めるとこ。」
教室の隅に荷物をまとめて作業に入る。とはいえもうほとんど完成しているから暇といえば暇。私は委員の仕事があるけどそれは放課後に家ですることだから午後はほぼ休み時間。
廊下では男子たちが掃除用具のロッカーをお化け屋敷をするクラスまで運んでいる。
「重そ〜。恵那あれ運べる?」
「私は無理かな...。結奈ちゃんは?」
「誰か手伝ってくれたらたぶん運べる。一応鍛えてるし。」
そういうと腕を触らせてくれた。確かに引き締まっているし、筋肉もありそう。
「私もちょっと鍛えようかな...」
「いいんじゃない?恵那ってさすがに力弱すぎるじゃん?」
「それはそうだけど...困る場面そんなにないし...」
「紗凪先輩は?力強いの?」
「まあ平均くらいじゃない?たぶんだけど。」
結奈ちゃんは「そっか。」とだけ言って去っていった。絵の具の乾き具合を見に行った。私も先生に呼ばれて職員室に向かった。校内マップに載せる出し物の紹介文を考えてと言われた。とりあえずその場で思いついたことをいくつか伝えて教室に戻る。
途中こっそり紗凪さんの教室を覗いた。教室の奥の方で複数人の男女と楽しそうに話している。
「紗凪さん...私といるときあんな顔しないのに...」
誰かに見つかる前にさっさと教室に戻った。正直覗きに行ったことを後悔している。嫉妬なんて見苦しいとわかっているはずなのに。私が一番だってわかってるのに。
廊下で作業していた男子に声をかけられる。
「相月さん、俺らのもできたから確認してくれない?」
「え、あ、うん。見せて。」
変になってなかったかとか気にする余裕もない。とりあえず完成した絵や立体パネルを見せてもらった。
「どうどう?この辺りなんか寂しいんだよね。」
「いいじゃん。ここは...あとでみんなにも聞いてみようよ。」
「おっけ。じゃあとりあえずこれで乾かすね。」
ベランダに出すのを手伝って、椅子に座って水を飲む。一回深呼吸してなんとか気持ちを整える。
「会いたい...」
誰かに聞かせるわけでもない呟きが思わずこぼれた。ちょうど結奈ちゃんが隣に来ていたのにも気が付かなかった。
「ラブラブじゃん。紗凪先輩と。」
「らっ...!そんなことは...」
「うそ。絶対ラブラブ。」
「も〜。からかわないでよ...」
「ごめんごめん。あ、さっき紗凪先輩来てたよ?たぶん恵那が目的じゃない?」
私は急いで廊下に出た。奥の方に紗凪さんの後ろ姿が見える。




