第65話:お互いさま
「さ〜なさんっ!」
私が思い切り飛びついても紗凪さんは嫌な顔一つしない。
廊下の端で私が紗凪さんに抱きついている。
「紗凪さん、作業は順調ですか?」
「うん。それよりさ、今日の放課後なんだけど、ちょっと時間もらえる?」
「もちろんです!何するんですか?」
「ん〜?ないしょ。」
「教えてくださいよ〜。」
そんなことを言い合いながらじゃれていたら廊下の向こうから真夏先輩が紗凪さんを呼びにきた。
「紗凪〜。空気入れどこにいったか知らない?」
「あ、ごめん。私が持ってた。」
紗凪さんの手には空気入れが握られている。真夏先輩は私と紗凪さんを見て少しばつが悪そうに目を逸らした。
「紗凪、イチャつくのは別になんにも言わないけど...」
「ごめんごめん。さっき恵那ちゃんがこっちのクラスの方まで来てたから気になっちゃった。」
真夏先輩が一瞬だけニヤッとした。私のほっぺたをつつきながら私と紗凪さんを交互に見ている。
「紗凪、文化祭は恵那ちゃんと二人でしょ?この子のために準備頑張るって言ってたんだから戻るよ。」
「なっ...なんで言うの!」
結局紗凪さんは真夏先輩に連行されて教室に戻っていった。廊下の向こうへ消えていく二人はとても仲良さそうに話しながら歩いていた。
(私のために頑張ってくれるんだ...)
そうは思いながらも真夏先輩への嫉妬が収まらない。
(やだな...重い女にはなりたくないのに。)
ため息交じりに教室に入る。
「結奈ちゃん、ちょっと来て。」
結奈ちゃんの手を引いて廊下に出た。
「恵那?どうしたの?」
「やだ。嫉妬ばっかりする自分がやだ。」
「あー...なるほどねぇ...」
結奈ちゃんが私と同じように壁にもたれかかる。
「私もしてたよ?紗凪さんに。恵那がずっと尻尾振ってて。でも好きだからそれも可愛いって思ってた。まあ今もだけど。」
少し耳が熱くなる。結奈ちゃんから見た紗凪さんに対する私はそんな感じだったんだ。
「楽しい?紗凪さんと付き合ってて。」
「うん。」
「じゃあ良いじゃん。ゆっくり自分と向き合いなよ。それにお互いがお互いのこと一番に思ってるでしょ?」
少しだけ結奈ちゃんに体を預ける。
「もうちょっと私以外には接し方考えてほしいけどな。」
「恵那がそれ言う?」
その言葉を発する結奈ちゃんの口調はとても柔らかかった。
「ごめんごめん。でもそうだよね。私が一番だよね。」
「うん。きっと絶対そうだよ。」
結奈ちゃんは私の手を引いて教室に戻った。
午後も準備も終わって放課後になった。紗凪さんとの約束がある。
駐輪場に向かうと紗凪さんが待っていた。
「お待たせしてすみません。」
「いいよいいよ。私も今来たとこ。」
「何するんですか?」
紗凪さんが私の手を優しく、でも何かを確かめるようにはっきり触っている。
「星見たい。私の家で。」
「良いですよ。一回帰ってお母さんに伝えますね。」
「うん。じゃあ恵那ちゃんちの前で待ってるね。」
自転車で走り出した。私の家に着いてお母さんに伝えに行く。
「紗凪さん、OKです。行きましょう。」
紗凪さんの家に着いた。何回か来てもう慣れているはずなのに未だに少し緊張する。
「暗くなるまで一緒に勉強しよ。」
「う...はい...」
紗凪さんが言うし渋々勉強を始めた。教えてくれるとき常に肩が触れ合っている。なんか良い匂いする。
「紗凪さん、一個いいですか?」
「なに?わからないとこあった?」
「紗凪さんって嫉妬とかしますか。」
「嫉妬?まあ...人並みには?そもそも人並みがわからないけど。」
それを聞いて少し安心した自分と、じゃあなんでと思う自分が心の中で殴り合っている。だめ。
「嫉妬してくれるんですね。私もです。」
「恵那ちゃん。私は恵那ちゃんしか想ってないよ。」
「紗凪さ...んむっ」
そっとキスされた。なんだか長い気がする。
「さな...さん...」
紗凪さんの肩を少し掴む。初めての濃い、大人なキス。
「はぁっ...。恵那ちゃん。大好き。」
キスの余韻で頭が回らない。返事をする前にまたキスされた。拒む理由などどこにも存在しない。




