第63話:新学期
初めてのキスから二週間、あっという間に夏休みが終わった。あれからもたまに二人で会って宿題を教えてもらったり、休憩中にちょっとイチャイチャしたりした。
今日は始業式。結奈ちゃんに言わなきゃいけない。決めたんだから。ちゃんと返事するって。
教室に入ると結奈ちゃんは既に来ていた。
「あ、恵那。おはよ。元気?」
「結奈ちゃん、おはよう。元気だよ。結奈ちゃんは?」
「元気。あの日はごめんね?髪のこととか。」
「ううん。気にしないで。」
私は席に座った。カバンを置いて結奈ちゃんの方を見る。
「結奈ちゃん、伝えたいことがあるの。」
「どうしたの?改まった顔して。」
膝の上の手をぎゅっと握る。
「私ね、紗凪さんとお付き合いし始めた。だからごめんなさい。結奈ちゃんの気持ちには応えられない。」
「やっぱり紗凪先輩だったんだ。良かったじゃん。なんで恵那が寂しそうな顔してるの。」
私は思わずえっ?って顔をした。それを見て結奈ちゃんが笑った。
「自信持ってよ。恵那は可愛いんだから。」
結奈ちゃんは「それにね、」と付け足す。
「正直悔しいし悲しいよ。好きな子取られるの。でも好きな子には好きな人と一緒になってほしいから。」
私の目から涙が溢れた。手で拭ってもどんどん溢れ出す。
「ちょ、恵那?なんで泣いて...」
「ごめん...辛いのは結奈ちゃんのはずなのに。」
「もぉ〜。泣かないでよ〜。」
結奈ちゃんが私の背中をさすっている。その手つきはすごく優しくて、私の抱えていた不安を溶かしてくれる。
「恵那、私はまだ好きだから。だから紗凪先輩と恵那のこと応援するから。」
「うん...ありがとう...」
他のクラスメイトも徐々に登校してきた。結奈ちゃんは何事もなかったかのように席に戻る。担任が入ってきてしばらく話していると放送で始業式が始まった。ぼーっと考え事をしていて話の内容はほとんど覚えていない。
始業式が終わって軽く教室の掃除をして解散となったあと担任に呼ばれた。
「相月さん、ちょっといい?」
「はい。どうしたんですか?」
「こんどの文化祭のクラス委員を相月さんにお願いしたいのだけどいい?」
「私がですか?」
「部活の方に行く子も多くて、頼める子が相月さんくらいしかいなくて...ちゃんと私もサポートするから。ね?」
結局断りきれず押し切られた。私だって一応部活はやってるのに。まあ文化祭では何もしないけど。
自転車置き場に行くと紗凪さんが待っていた。
「遅かったじゃん。何かあった?」
「すみません。文化祭のクラス委員になってしまって...」
「そうなの?大変だね。私も去年やったよ。」
紗凪さんは自転車に跨りながら回想に耽っている。その間に私も自転車を持ってきた。
校門を出てしばらく走っていると最近オープンしたばかりのパン屋さんの前を通った。
「紗凪さん、あそこ行ってみませんか。」
「ああ、もうオープンしたんだね。行ってみよっか。」
駐輪スペースに自転車を並べて店内に入る。いろんな種類のパンが所狭しと並んでいる。
「紗凪さんどれにします?私はメロンパンとこしあんパンにしました。」
「ん〜...悩むなぁ〜。どれも美味しそうで。」
紗凪さんは私のトレーを見た。
「恵那ちゃんは甘い系のパンだし、私はおかず系のパンにしようかな。」
「紗凪さんは甘いのいらないんですか?」
紗凪さんの私を見る目が変わる。頬も少し膨らんでいる。
「シェアしたいからなんだけど。」
「そういうことでしたか...」
紗凪さんは焼きそばパンとツナマヨコーンパンを買った。店内の席で二人で向かい合ってパンを食べる。
「もう9月なのに涼しくなる気配が全くしないね〜。はい、あーん。」
紗凪さんの手からツナマヨコーンパンを食べる。最近はあーんにも慣れてきた。
「美味しいですね。」
「ね。」
パンを食べ終わってお店を出た。また自転車で走り出す。いつもの別れる交差点のところでキスをしてからバイバイした。そこから先の帰り道はいつもより暑かった。




