第62話:思い出になる場所
神社に着いた。人はおらず、私たち二人だけ。階段の一番上まで登ると夕焼けで金色に染まる街と、暗くなっていく空が見える。
「紗凪さん、なんでここに?」
「あそこ座ろ。」
先輩が指を差したのは花火を見るときにも座った階段だった。二人で並んで座る。前と違うのは手を繋いでいること。
「恵那ちゃん、告白してくれてありがとう。言ってくれなきゃたぶんずっとただの友達だった。」
「私の方こそありがとうございます。紗凪さんがちゃんと応えてくれて嬉しかったです。」
空を見上げると一番星が輝いていた。私と先輩を引き合わせてくれた星。今でも星座はあまり知らないけれど、星には感謝している。
「紗凪さんは覚えてますか?初めて一緒に星を見たときのこと。」
「忘れるわけないじゃん。あのとき恵那ちゃんが勇気出して部室に来てくれたから今の私たちがあるんだし。」
先輩の目が微かに潤んでいるように見えるのは気のせいだろうか。ただの夕日の反射か、それとも本当に潤んでいるのか。
「紗凪さん泣いてます?」
「っ...泣いてない。」
泣いてるな、これは。私の前でくらい我慢しなくていいのに。でもそこが先輩らしくて好き。
「紗凪さん。」
先輩のことをそっと抱きしめた。目は合わせられない。私は私で見せられない顔をしている。
「紗凪さんのこと、私との関係では不安な思いさせないので。何かあったら教えてくださいね。」
先輩も私の身体に腕を回してきた。階段で座って抱き合っている。
「うん...今日のデートでようやく実感湧いてきたら嬉しくなっちゃって。」
そう言うと私を抱く力が少し強くなった。
「紗凪さん、ちょっと強いです...」
「あ、ごめん。痛かった?」
お付き合いする前は外で抱き合うとか、手を繋ぐことするなんて思わなかった。そういうの嫌だと思ってたけど、いざお付き合いすると全然気にならなくなる。むしろしたいくらい。今までバカップルだと思ってた人の気持ちがようやくわかった気がする。
「恵那ちゃんこういうの苦手だったっけ。」
「え?あ、いや...紗凪さんとなら大丈夫です。なんならもっとしたいくらい...」
後半になるにつれてどんどん声が小さくなっていった。本心だけど伝えるのは恥ずかしい。
「紗凪さん、2学期の文化祭一緒に周ってくれませんか。二人でお化け屋敷行ったり、写真撮ったりしたいです。」
「うん。私も恵那ちゃんと一緒がいい。」
しばらく見つめ合うだけの時間が流れていた。それはそれで良かった。私が恥ずかしくなって目を逸らすたびに先輩が顔を覗き込んできた。
「紗凪さんは真夏先輩と約束してないんですか?」
「真夏?真夏はむしろ二人で行けって言ってくれるよ。応援してくれてたし。」
「言ってたんですね。まあ良いですけど。紗凪さんが信頼してる人になら。」
真夏さんが先輩と仲良いことは十分わかってる。でも嫉妬はしてしまう。先輩にとって一番は私だとわかっているはずなのに。
「恵那ちゃん見て。もうすぐ夕日沈むよ。星もちらほら出てきたし。」
「昼と夜のちょうど境目ですね。一日が終わっちゃう。」
先輩が私の手をきゅっと握ってきた。何かを小さい声で呟いている。
「何か言いました?よく聞こえなくて...」
先輩が再び抱きついてきた。
「今日ここに連れてきたの、ここを一生の思い出の場所にしたかったから。」
「紗凪さん?それって...」
「キス...していい?」
私は何も言わずにそっと目を閉じた。それを見て先輩が唇を重ねてきた。お互い手を握る力が強くなる。
しばらく離れなかった。離れたあと目を開けると先輩の顔が夕焼けでは言い訳できないくらい真っ赤。
「もう一回。」
再びキスをした。夕焼けと早めに顔を出した星たちだけが私たちを優しく見守っている。




