第61話:きっかけ
先にスタスタと歩きだした先輩になんとか追いついた。
「紗凪さん、本気ですか?」
「冗談でこんなこと言えない。」
先輩の手を握る。ただ繋ぐだけじゃない、恋人繋ぎ。
「ちょっ...恵那ちゃん...」
「紗凪さんのせいです。我慢してください。」
私がただ恋人繋ぎしたくなっただけとは絶対に言えない。言ったら何かに負ける気がする。
なんだかお付き合いすると余裕が出てきた。自分が先輩に好かれているとわかると、途端に先輩が幼く、でも可愛く見えるようになった。付き合うまではこんなに動揺とかしてなかったはず。
「紗凪さん、今までどうやって隠してたんですか。」
「今までは...隠さなきゃって思ってたけど、一回ブレーキが外れちゃうともう抑えられなくて...」
先輩の手をさらに握る。
「紗凪さん、お揃いの雑貨とかアクセサリー買いましょう。二人だけのお揃い。」
先輩照れてる。キュートアグレッションかな。もっと照れさせたくなる。すごく可愛い。
先輩に手を引かれて雑貨屋さんに入った。小さいものから家のどこに置けばいいかわからないものまで色々ある。一旦離れてお互いに気に入ったのを探すことにした。
「あ、これ先輩好きそう。こっちもいいかな。」
結局最初の直感を信じて星を抱えるカニのキーホルダーにした。
「紗凪さん、なにかいいのありました?」
「これとかどう?恵那ちゃん好きそう。」
先輩が見せてくれたのはミズクラゲの置き物だった。サイズも丁度良くて可愛い。水族館行ったときの私の話覚えててくれたんだ。
「良いですね。先輩...あ、紗凪さんの選んだやつお揃いにしたいです。」
「私は恵那ちゃんの選んだやつがいい。あと早く慣れてね。名前で呼ぶの。」
「はい。私はこのカニです。」
結局ミズクラゲもカニも一個ずつ買って、そのあとお互いで交換することにした。お互いにプレゼントし合う感じがしていい。全く同じものなのに。
「紗凪さん、どうぞ。ミズクラゲとカニお揃いですね。」
「恵那ちゃんもどうぞ。」
お互いに渡し合ってまた手を繋いで歩き出す。同じクラスの人とすれ違ったけど気にしない。
「私がミズクラゲ好きなの覚えててくれたんですね。」
「うん。恵那ちゃんのことあのとき好きになったと思う。」
立ち止まった。なんで?なんであんな私見て?ただミズクラゲの写真撮ってただけじゃん。先輩のこと置いてけぼりだったし。
「なんでですか。もっと他にきっかけあるでしょ。」
「なんか、水族館の暗さもあって、クラゲ見てる恵那ちゃんがすごい眩しく見えて。そこで恵那ちゃんのこと好きなんだって思ったんだ。」
結局誰だってきっかけは単純なのかな。私なんて一目惚れだし。あんま人のこと言えない。
「じゃあ、花火のときはどうだったんですか。」
先輩が私の手を握る力を少し強くした。照れがわかりやすい。
「私から言うつもりだった。でも結奈ちゃんのこともあって辛そうだったから言えなくて。」
「私言ったんですよ。タイミングよく花火上がってかき消されましたけど。」
絡んでいた指がさらに絡む。
「恵那ちゃん、もうちょっと買い物したら夏祭りやってた神社行こっか。」
「良いですけどなんで...」
「着いてからの秘密。」
その後先輩と一緒に本屋さんに行っておすすめの本を紹介し合ったり、途中のカフェでゆっくりしたあと神社に向かって歩きだした。
「紗凪さん、一回荷物置きに帰りませんか。」
「そうする?重い?」
「はい。さすがに神社までこれ持っていくのはしんどいです。」
「そっか。じゃあ恵那ちゃんの家行こ。私のも預けていい?帰りにちゃんと回収するから。」
「良いですよ。」
私の家に荷物を置いて神社に向かってまた歩き出す。手はまた深く繋ぎ直した。夕日が鳥居の向こうに沈んでいく。




