第53話:花火の中で
「私でよければ教えてくれる?」
先輩がいつも通り優しく聞いてくる。今の私にはその優しさが痛い。先輩に言うべきか、それとも黙っておくべきか。
「昨日、結奈ちゃんに好きって言われて...」
言ってしまった。もう戻れない。周りでは音楽が鳴り始めた。あと僅かで花火が上がる。
「どうすればいいのかわかんないんです。結奈ちゃんは私の大切な友達で、」
最初の花火が上がる。歓声が上がる中、私と先輩だけが花火を見ずに静かだった。
「恵那ちゃんは結奈ちゃんに好きって言われてどう思ったの?」
「びっくりしちゃってまともな反応できなくて...」
私の涙ぐんだ目が見えたのか先輩が優しく肩を引いてきた。先輩の体にもたれかかる。
「私はっ...結奈ちゃんも先輩もどっちも大事にしたいっ...わがままだってことくらいわかるけど、私にとって二人は替えがきかない大切な人だから...」
「私も?」
花火の音が私の中心に大きく響く。夏の夜の空気、お祭りの雰囲気、夜空に咲き乱れる花火。もう抑えられない。
「私は先輩のことがーーーー」
特別大きな花火が上がった。音楽や声が全部かき消されるくらい大きな音と光が私と先輩の意識を無理やり引っ張る。
「綺麗...」
先輩がつぶやいた。私の言葉が先輩の耳に届いたかはわからない。届いていたなら私と先輩の関係も終わる。届いていないことを願いながら花火を映す先輩の瞳を見ていた。星ではなく花火が映る瞳を。
その後は二人とも何も言えなくなって花火を見ていた。花火もフィナーレに突入してどんどんペースが上がる。波のように右から左へ、左から右へと花火が上がったあと、最後に一番大きくて明るい花火が上がった。終了のアナウンスとともにぞろぞろと人が階段を降りていく。
私たちも立ち上がって階段を降りた。
「ごめんなさい...せっかくのお祭りで空気暗くして...」
「気にしないでよ。それに...」
先輩がくるっと私の方を向いた。
「…………」
何かを呟いてまた前を向いた。暗くてあんまり顔が見えなかったし、周りの人のざわめきで声も聞こえにくかった。
「先輩、今なんて...?」
「ないしょ。」
先輩の隣に並んで歩き出す。
「恵那ちゃん、今日お泊まりできない?」
「今日ですか?なんで急に?」
「家にさ、花火あるんだよね。」
その一言で十分だった。すぐにスマホを取り出してお母さんに電話する。
「もしもし、お母さん?」
「どうしたの?」
「今日さ、先輩の家で花火やってそのまま泊まってく?って言われたんだけど...いい?」
お母さんは少し考えてから言った。
「着替えどうするの。」
「私のTシャツ貸すよ。」
「先輩が貸してくれるって。」
「明日遅くなりすぎないようにね。」
それだけ言って電話を終えた。先輩の家まで並んで歩いていく。先輩はさっきなんて言ったんだろう。そもそも私の言葉聞こえてたのかな。聞きたいけど聞いたらなんて言ったか絶対に言わされる。それだけは避けなきゃいけない。
先輩の家に着いた。先輩が玄関のドアを開けたところで冷静になる。
「急にお泊りなんて大丈夫なんですか。」
「今日私だけだから寂しくて。」
大好きな人と二人きりで一晩。先輩はただ友達を家にあげる感覚だろうけど、私からしたら家族がいないというだけで全く変わる。花火をして寝るだけなのはわかっている。でも二人きりというだけでこんなにも意識してしまうのか。
「先輩、花火する前にお風呂入りますか?」
「そうだね。先行きなよ。」
「先輩が先に行ってください。」
お互い譲り合う。。どうしても先にお風呂に入ってほしかった。先輩は私がお客さんだから譲って、私はなんとなく先輩の後が良いから譲っている。
結局私が先に入ることになった。着替えをもらってお風呂場に向かう。ゆっくり浸かったあと体を洗ってお風呂からでた。リビングに戻ると着替えを持った先輩が待っていた。
「すぐ戻るから。」
そう言ってお風呂場に消えていった。




