第36話:気持ちに響く声
今週末は先輩と水族館に行く。昨日は結奈ちゃんとのお出かけの翌日だったからそこまで意識するタイミングもなかったけど、今日部活があること、少し時間が経ったことを考えると一気にドキドキしてきた。別に先輩とはまだただの友達だけど、水族館なんて定番のデート先だから嫌でも意識してしまう。
「恵那ちゃん、どうしたの?なんか心ここにあらずって顔してるけど。」
「え?そうですか?」
そんなに顔に出ていただろうか。前は無愛想だのなんだの言われていたけど、先輩と出会ってからすぐに顔に出るようになってしまった。
「そんなに水族館楽しみにしてるの?」
「そりゃ楽しみですよ!」
間髪入れずに答えた。なにを今更当たり前のことを聞いてくるんだと思って少しむっとしたが、先輩が可愛いから許してしまう。
「先輩はどうなんですか。」
「私?私も楽しみだよ。恵那ちゃんと遊ぶの楽しいし。」
嬉しい。そんな一言では言い表せないくらいの感情が胸の中に溢れている。私は溢れる感情を抑えるために黙ってしまう。先輩も私を見て何を言えばいいかわからず黙っている。
蝉の声が二人きりの部室に響いている。
「暑いね。」
まだクーラーがついていないから、教室を締め切っているとすごく暑い。窓を開けても生ぬるい風が入ってくるだけで何の解決にもならない。
「日曜日、楽しみですね。」
「うん。熱中症気をつけないとね。暑いらしいから。」
今日は夜まで残って星を見る。もう星空も夏に表情を変えている。出会ったころとはまた違う空。夏は好きじゃないけれど、先輩と星を見られるなら悪くないかもしれない。
その後もしばらく何でもない話をして暗くなってきたから屋上に出て星を見る。
「夜でも最近は暑いですね。お泊まりしたときはまだ寒かったのに。」
「まだ本番は来てないからもっと暑くなるよ。」
「いやですね…暑いの苦手なんで。」
「そう?私は結構好きだよ。」
好きと言う言葉に最近過剰に反応してしまうようになった。我ながらおかしいとは思うが、自分の本音を無視するのは違う気がするから最近は受け入れている。
「あ、流れ星。」
「ほんと?どこにあった?」
私があの辺りと指で示す。この瞬間がいつまでも続いていてほしい。
あっという間に21時になった。荷物を持って駐輪場へ向かう。月が雲で隠れるたびに更に暗くなる。街頭の光だけが先輩の顔を照らしている。どうしよう。今はまだ大丈夫だけど、そのうち抑えることができなくなるかもしれない。
いつもの交差点で別れて家に帰る。ごはんを食べてお風呂に入ってそのまま眠る。いつも通りの生活を繰り返す。水曜日。学校で結奈ちゃんと話して、帰りにちょっと遊んでまた家に帰る。温かいごはんを食べてお風呂に入って寝る前に少し先輩と電話をする。
「恵那ちゃん、遅くにごめんね。日曜日なんだけど、ちょっとだけ早く来れる?見せたいものがあるの。」
「大丈夫ですよ。何時くらいに行けばいいですか?」
「早いけど7時に来れる?」
7時か。頑張れば不可能ではない。早起きはできるから多分大丈夫。前日の夜に楽しみすぎて寝れない。なんてことがなければだけど。
「大丈夫です。楽しみが増えました。」
私がそう言ったとき、電話の向こうからかすかに先輩の咳払いのような声が聞こえた。
「どうしたんですか?」
「あ、ごめん。なんともないよ。ありがとう。遅くにごめんね。おやすみ。」
先輩におやすみと言われるのはもう何回目かわからないけど未だに慣れない。好きな人からのおやすみほど重たいものを私は知らない。
その後はしばらく眠れなかった。
木曜日と金曜日はあっという間に過ぎた。土曜日はめずらしくお昼前まで寝てしまった。スマホを見ると結奈ちゃんからメッセージが届いている。
『恵那!めっちゃ可愛い猫いた!』
写真が送られてきた時間をみると7時42分だった。休みでも朝からランニングに行くのか。可愛いね。と返信をして朝ごはん兼昼ごはんを食べた。ぼんやりと過ごしていたらもう夕方。外はかなり暗いからもう18時はまわっているはず。まもなく先輩と水族館。そう思うと時間の流れが遅く感じる。そわそわが治らないまま無理やりベットに入った。




