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冴えない兄が妹の友達とシていることを、妹は知らない  作者: 川坂藍斗
バ、バレたらマズいって夏希ちゃん

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3/6

夏希ちゃんとの出会い

 俺は田町たまち真人まさと。実家暮らしの大学二年生。

 今日は家のリビングで、いつも通りに大学のレポートをしている。

 

 『ウォーカー入門経済学』とかいう、どうも有名らしい教科書の第一章の課題をやらされている。

 「入門」というタイトルなのに、ページ数は五百を超える。経済学の門は、重いらしい。


 俺はダイニングテーブルの席を立ち、固まった体をほぐすように伸ばしながら、ソファにもたれる。


 カチ、カチ、カチ、と掛け時計の音が、他に誰もいない家に鳴っている。

 時刻は午後六時。


(もう、こんな時間か)


 そろそろ妹の明美が部活を終えて帰ってくる時間だ。

 この春に高校一年生になった妹は、毎日のように部活をしている。充実した学生生活を送っているようだ。


 ——俺と違ってな。


 同じ東京、同じ家庭に生まれ育った俺たちは、少しだけ違う人生を歩んでいる。


「ただいまー」


 と、遠くから声がした。噂をすれば、だ。

 妹が家に帰ってきた。


「お邪魔しまーす」


(……ん? 知らない女の子の声だ。友達を連れてきたのか? 聞いてないぞ?)


 二人分の軽い足音が廊下から近づいてくる。

 ガラガラとドアが開き、明美が入ってきた。


「あ、お兄ちゃん。帰ってきてたんだ」


 後ろから続いて、妹と同じセーラー服を着た、茶髪の女の子が入ってきた。


「あっ、お邪魔しま〜すっ♪」


 ニッコニコとした笑顔で俺に挨拶をしてきた。いかにも陽キャって感じだ。

 小さな丸い顔、大きな丸い目、長いまつ毛。オレンジに近い明るい茶髪がよく似合う、活発な雰囲気の女の子。

 ……この子、めちゃくちゃ可愛いんだが。


 こんな美少女と挨拶なんて、恥ずかしい。

 俺みたいな陰キャでコミュ障な男には、挨拶だって難しい。


 落ち着け、落ち着くんだ俺。普通に、普通に挨拶すればいいんだ。


「おかえり明美。 えーっと、明美のお友達? はじめまして」


 俺、普通に話せてるかな? そんなことも分からない。


「はじめまして! 瀬川せがわ夏希なつきって言います! 明美ちゃんのお兄さんですよね?」


 小さくぴょんぴょん跳ねて、返事をされた。

 制服のスカート、大きな胸、胸元まで伸びるふわふわした髪も、同時に揺れる。元気な子だな。

 でも、そんなに元気に話されても、俺は困るぞ。こんなテンションに合わせることなんて、俺にはできないんだから。


 とにかく、普通に、波風を立てないように、話すんだ。

 そして、嫌味のないタイミングを見計らって自分の部屋に戻ろう。どうか、上手くいってくれ。


「そ、そうです。はじめまして。真人って言いまひゅ」

「そんなとこで噛みます? お兄さん、変な人っ」


 腹を抱えて笑われてしまった。

 確かに、初対面の年下の女の子に向かって、名乗るだけで噛むなんて、めちゃくちゃカッコ悪いと思う。

 でも、変によそよそしくされるよりは、場が和んで良いのかもしれないな。


「明美ちゃん、いつもお兄さんのことを私に自慢してくるんですよ? 素敵なお兄さんなんですねっ」

「そ、そうなのか。自慢できるようなことなんて何もないんだけど……」

「もー、やめてよ夏希ちゃん」


 明美のやつ、友達に何を話してるんだ。


 ともかく、ちょうどよく挨拶も済んだんじゃないかな。

 これ以上ボロが出ないうちに、この場を去ろう。俺は邪魔者なわけだし。


「明美、じゃあ俺は部屋に戻るからな」

「あ、うん。急に友達呼んでごめんね。……って、宿題のプリント学校に忘れた!」


 明美が急に叫ぶ。


「おいおい、明美……」


 俺に続いて、夏希ちゃんが叫ぶ。


「えー、何してんの明美ちゃん。明日までに出すやつじゃん!」

「しまったなあ。ごめん、ちょっと取ってくる!」

「もー、早くしてね」


 あれ、このままだと夏希ちゃんと二人きりになるんじゃ……。

 そう思ってる間に、妹はドタバタと学校に戻っていってしまった。


 ああ、俺はこういう急な状況で、いつも口から咄嗟に言葉が出ない。夏希ちゃんに一緒に取りに行ってもらう提案をするとか、できることはあったはずなのに。俺は、自分が情けなくなった。


 シーン……と、リビングが静まり返る。

 取り残された二人は、自然と目があった。


「明美ちゃん、ドジですねえ。いつもこんなことしてるのかな? ウケるw」


 とりあえず、怒ってないようで安心した。


「ごめんな、そそっかしい妹で」

「あっ、そんなことより、すみません、お酒飲んでたところにお邪魔して……」

「いや、いいんだ。というか、酒臭いだろ、ごめんな?」


 俺は缶ビールを飲みながら休憩をしていたのだ。


「いえいえ、私が急にお邪魔したわけですし」


 確かに妹の友達が来るなんて知らなかったのだから、俺に落ち度はないだろうけれども。


 かといって、こんな酒臭い大学生が、高校一年生の女の子と家で二人きりになるわけにはいかないな。

 やっぱり部屋に戻るか。


 俺は缶ビールを手に取り、立ち上がる。


「じゃあ、俺は自分の部屋に戻るよ」

「えー? 私一人になっちゃうじゃないですかぁ。 そんなの、つまんないですよ」


 しょぼん、と残念そうにしている。かわいそうだな。でも、そんな顔も愛くるしくて可愛い。

 とはいえ、そんな姿を見せられても、俺はこんな陽キャっぽいJKと話すことなんてないぞ。

 でも、無理矢理この場を去る勇気も俺にはない。もう少しだけ、この場に残ってみるか。


「そ、そうか……」


 だめだ。言葉が続かない。

 すまんな、コミュ障なんだ。俺は。


 そう思っている間に、その美少女は、俺の座っているソファの隣にボスっと座ってきた。


(ち、近いな……)


 俺はびっくりして顔を見る。


「?」


 俺の驚いた顔を見てか、きょとんとした表情をされる。


 この子は、大人の男の近くに座ることに何の抵抗もないのか?

 しかも、二人きりの空間で?

 ……ともかく、彼女が物理的に近づいてきたのは、心を閉ざしてしまっている俺のことを察してのことかもしれないな。


 それにしても、この子の距離を縮めるペースは、速すぎるな。


(というか、この子、胸でかいな。谷間も見えそうじゃないか。……いかんいかん、妹の友達にこんな視線を向けちゃいけない)


 俺は慌てて目線を逸らす。

 急に無防備にも近づいてきた美少女に、俺はついつい色んなところに目を向けてしまったのだ。

 一瞬だけれども。


 気を取り直す暇もなく、夏希という女の子が話しかけてくる。


「ねえ、お兄さん。明美ちゃんね、お兄さんのこと……オトナっぽいって言うんですよ?」


 彼女は座ったまま、ずいっと身体ごと近づいてくる。わざわざ、俺の手が余裕で届くような距離まで。


「そ、そうかな。普通だと思うけど」

「本当ですか? アタシ、お兄さんのこと、気になってますっ」


 真っ直ぐな瞳を向けられて、俺は固まってしまった。

 

 俺のことが気になるって?

 

 初対面の俺に?

 明美が変なことでも吹き込んだのか?


「な、なんでだよ……」

「そりゃあ、アタシのおっぱい見てくるからじゃないですか」

「……え?」

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