妹にはヒミツです
妹の友達である夏希ちゃんと、またもや身体を重ねてしまった、その翌朝。
リビングに降りドアを開けると、そこは優しい味噌汁の匂いに包まれていた。
妹の明美が、朝食を用意してくれていたのだ。
家でご飯を食べるときは、いつも二人だ。そして、今日も。
うちの両親は昔からほとんど家にいない。だから朝食は俺と明美の当番制になっていて、今日は明美の番だった。
俺は、小学生のころから明美の面倒を見てきたが、今はもうとっくに立派に朝ごはんも作れるようになっている。
俺は明美の親代わりみたいなものなんだけど、最近はあまり手がかからなくなってきた。
「おはよ、明美」
「……おはよう」
声が小さい。普段なら小言の一つも言ってくるのに。
俺はダイニングテーブルに座ると、明美も遅れて座ってきた。
「いただきます」
「……いただきます」
その後、明美はどこか深妙な顔で、箸を持ったまま何も手をつけずに固まっていた。
「……食べないのか?」
「……あのね、今朝、お兄ちゃんと夏希ちゃんが付き合ってる夢を見たの」
——心臓が跳ねた。
落ち着け。まずは落ち着くんだ。動揺したら、逆に怪しい。
「ど、どうしたんだよ急に」
「わかんないよ。付き合ってるわけなんて、ないのにね」
「そ、そうだよな……」
明美は箸を取り直して、味噌汁を一口すすった。
「……まあ、夢なんだけどね」
「お、おう」
「お兄ちゃんと夏希ちゃん、話したこともほとんどないはずなのにね、おかしいね」
「……」
明美は一人で勝手に不安になって、勝手に自己解決していた。
こいつ、こういうところあるんだよな。能天気というかなんというか。
ともかく、俺は心の中で深いため息をつくことができた。バレてなさそうで良かった。
すると、明美は箸を持ったまま、にやっと口角を上げた。
「それに、お兄ちゃんに彼女ができるわけないもんね!」
「その言い方はひどくない……?」
明美は、きょとんと俺を見つめながら追撃してきた。
「だって、陰キャじゃん」
「そ、その通りだけどさ……」
「だって、コミュ障じゃん」
「そ、そうだけどさ……」
「だって、友達すらあんまりいないじゃん」
「もう分かったって!」
明美は、俺のことをまさに鼻で笑っている。
そして、味噌汁の入ったお椀をコトンと机の上に置き、俺の目を真っ直ぐ見て言う。
「……でも、私にとっては大事なお兄ちゃんだけどね?」
「……ありがとよ」
俺も「ふっ」と自然な笑みが溢れた。
お互いに、くすくすと笑いながら、朝ごはんを食べ始めた。
いつもの食卓の空気が、戻った。
いつもの軽口が出てくるようになった明美は、米を口に持っていきながら、もう夢のことなんか忘れたような顔をしている。
昨日、壁一枚隣でやっていたことにも、あのあと夏希ちゃんが何事もないような顔をつくろって明美と遊び、帰っていったことにも、何も気づいていないらしい。
(……助かった。「お兄ちゃんに彼女ができるわけない」か。そう思っててくれてるうちは、バレる心配はなさそうだな)
皮肉なもんだよな。妹に舐められてることが、こんなにありがたいなんて。
(それにしても、どうなるんだろうな、これ……)
——夏希ちゃんだけじゃない。
俺には他にも、こうして秘密を共有している女の子がいる。
全員に共通していることは、たった一つ。明美には、絶対にバレてはいけない。
(……いつまで続けられるんだろうか、こんなこと)
全部、あの日から始まったんだ。
妹が家に連れてきた、一人の女の子。夏希ちゃん。彼女と二人きりになった日から。




