答えのない放課後
テスト勉強がやばいです
翌週、月曜日。
休日が終わり、いつもの学校が始まる。
朝の教室には眠そうな顔をした生徒たちが集まり、あちこちで週末の出来事を話していた。
「映画見に行ってさ」
「課題終わってねぇ」
そんな何気ない会話が飛び交う。
僕は窓際の席に座りながら、ぼんやりと校庭を眺めていた。
昨日のことが、まだ頭から離れない。
『東雲にいい人がいないなら付き合わない?』
白石の言葉。
返事はまだしていない。
いや、できなかった。
答えが分からなかったから。
「東雲、おはよう」
声を掛けられて振り返る。
白石だった。
昨日と変わらない笑顔。
まるで告白なんてなかったみたいに自然な態度だった。
「おはよう」
僕もできるだけ普通に返す。
すると白石はそれ以上何も言わず、自分の席へ戻っていった。
……助かった。
返事を催促されることもなく、いつも通り接してくれる。
そのことに安堵している自分がいた。
昼休み。
購買でパンを買って教室へ戻ろうとした時だった。
「先輩!」
聞き慣れた声がする。
その声を聴くだけで胸の中に張りつめていた心が、少しだけ軽くなる。
深冬ちゃんがパンを片手にこちらへ駆け寄ってきた。
「今日も一緒に食べませんか?」
「ああ、いいよ」
迷うことなく返事をする。
白石に遊びへ誘われた時は、あんなに悩んだのに。
深冬ちゃんからの誘いには、迷いがなかった。
……なんでだろう。
まだ答えは分からない。
でも、その答えは少しずつ、自分の中で形になり始めている気がした。
「じゃあ、私は教室戻りますね」
「うん」
深冬ちゃんは小さく手を振ると、廊下の向こうへ歩いていく。
その背中が見えなくなるまで、僕は何となく見送っていた。
「……東雲?」
不意に声をかけられ、我に返る。
振り向くと、白石が少し不思議そうな表情でこちらを見ていた。
「え?」
「いや、呼んでも全然気づかなかったから」
「ああ、ごめん」
苦笑しながら頭をかく。
「考え事?」
「まあ、そんなところかな」
白石はそれ以上聞かなかった。
代わりに、小さく笑って言う。
「返事のことなら、本当に急がなくていいから」
「ちゃんと東雲が決めた答えなら、私はそれでいい」
「……ありがとう」
その言葉に嘘はない。
だからこそ、余計に胸が痛んだ。
白石が教室へ戻ったあとも、僕はしばらく廊下に立ったままだった。
返事をしなければならない。
そう分かっている。
でも。
答えを考えようとするたびに、頭に浮かぶのは白石じゃない。
文化祭で笑っていた深冬ちゃん。
夕暮れの中庭。
「来年も一緒に回りませんか?」
あの約束。
「……なんなんだろうな」
自分でも分からない。
ただ一つだけ確かなのは。
深冬ちゃんのことを考える時間が、少しずつ増えているということだった。
その時だった。
校内放送が鳴る。
『二年A組の東雲奏さん。生徒会室まで来てください』
突然の呼び出しに、僕はゆっくり顔を上げた。
「……今度は何?」
恋の答えはまだ見つからないまま。
僕は、生徒会室へ向かって歩き出した。
一次元の挿し木という本を読んだのですが面白かったです




