祭りの続きを、君と
体重が増えない、ラグビーでFWするなら80キロはないと流石に死ぬ。
体育館の外へ出ると、さっきまでの熱気が嘘みたいに感じた。
秋の風が、少しだけ火照った頬を冷ましていく。
演劇は無事に終わった。
大きな拍手に包まれながら幕を下ろした舞台。
あの瞬間の白石の表情を思い出す。
不安も、緊張も、全部抱えたまま。
それでも最後まで舞台に立ち続けた。
もう大丈夫だろう。
そう思えるくらいには、彼女は前を向いていた。
「……終わったな」
小さく呟く。
今回の事件に犯人はいなかった。
誰かを責めて解決する話でもなかった。
それでも、一人の生徒がもう一度前を向けたのなら。
きっと、それで十分なんだと思う。
その時だった。
「先輩」
聞き慣れた声に振り返る。
人混みの向こうで、深冬ちゃんがこちらに向かって手を振っていた。
「お疲れ様です、白石さんは大丈夫でしたか?」
「今の彼女ならもう大丈夫」
「そうでしたか、彼女が前を向けたようで良かったです!」
「遅くなってごめんね、待たせた?」
「三十分くらいです」
「それ、結構待たせてない?」
申し訳なさを感じつつそう言うと、深冬ちゃんは少しだけ考えるように首を傾げた。
「でも、先輩を待つ時間は嫌いじゃないので」
予想外の返答に思わず言葉が詰まる。
胸が弾むのを感じる。
そんな僕を見て、深冬ちゃんは小さく笑った。
「それで、先輩」
「今日はちゃんと文化祭を回ってくれるんですよね?」
「もう事件は起きませんよね?」
「さすがにもう起きないよ」
少し笑いながら話す。
周りを見渡してみる。
楽しそうに笑う生徒たち。
模擬店から漂ってくる食べ物の匂い。
校内に響く賑やかな声。
……たぶん、大丈夫だろう。
「うん」
「今度こそ、ただ文化祭を楽しもう」
そう言って歩き出す。
「……楽しみにしてました」
少し照れながら話す彼女の姿にドキッとする。
「僕もだよ」
口角が上がりそうになるのを抑えなんとか返答する。
自分の気持ちを隠すように深冬ちゃんは少しだけ足早に前を歩き始める。
文化祭は、まだ終わらない。
今度は事件のためじゃない。
ただ、大切な人と過ごすための時間が始まろうとしていた。
「それで、どこから回る?」
僕がそう聞くと、深冬ちゃんは少しだけ考えるように視線を上げた。
「先輩は行きたいところありますか?」
「特には……深冬ちゃんは?」
「私も特には」
お互いに顔を見合わせる。
そして。
「……どうしましょう」
「……どうしようか」
同時に同じことを言ってしまった。
数秒の沈黙。
やがて、深冬ちゃんが小さく笑う。
「せっかくの文化祭なのに、計画なしなんですね」
「事件のことばかり考えてたから」
「それは分かります」
そう言って、深冬ちゃんは校内案内図へ視線を向けた。
「じゃあ、まずは食べ物系から行きませんか?」
「お腹空きました」
「確かに。朝からバタバタしてたしね」
「決まりです」
そう言って歩き出した深冬ちゃんは、数歩進んでから振り返る。
「先輩」
「ん?」
「今日はちゃんと楽しんでくださいね」
「……事件のこととか、白石先輩のこととか、もう考えなくていいので」
「今日は私との約束ですから」
その言葉に、少しだけ胸が高鳴る。
文化祭を一緒に回る約束。
ただそれだけのことなのに。
「……分かった」
「今日は深冬ちゃんと文化祭を楽しむよ」
そう答えると。
深冬ちゃんは少しだけ目を見開いた。
そして。
「……はい」
嬉しそうに、でも少し照れたように笑った。
その笑顔を見た瞬間。
僕は、ふと思った。
事件を解決することばかり考えていたけれど。
今日くらいは。
ただの高校生として、この時間を楽しんでもいいのかもしれない。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
隣を歩く深冬ちゃんとの距離は、いつもと変わらない。
それなのに。
なぜか今日は、その距離を少しだけ意識してしまう。
文化祭は、まだ始まったばかりだった。
タスクバーヒーローにかなりはまってます




