幕が上がる前に
金を稼ぎたいがバイトをする時間がなさすぎて倒れそう。
涙が落ちたあとも、
しばらく誰も言葉を発さなかった。
川の流れる音だけが、静かに耳へ届く。
白石は顔を伏せたまま、
肩を小さく震わせていた。
今まで一人で抱え込んできたものが、
ようやく少しだけ溢れたのかもしれない。
僕は無理に言葉を探さなかった。
今必要なのは説得じゃない。
きっと——話を聞くことだ。
やがて白石が、小さく呟く。
「……私ね」
震えた声だった。
「本当は、演劇が好きなんだ」
夕暮れの河川敷に、
その言葉だけが静かに溶けていった。
「白石は主役だから頑張らなきゃいけないと思ってるんだろうけど」
「主役だから一人で頑張る必要はないよ」
白石は震える声で話す。
「でも失敗したら……」
「失敗したら皆でフォローする」
「演劇ってそういうものじゃない?」
白石はすぐには答えない。
「……少しだけ考えさせて」
白石は川の流れを見つめたまま黙り込む。
夕日が少しずつ沈んでいく。
やがて——
「白石先輩、大丈夫ですかね?」
「多分大丈夫じゃないかな、明日には答えを皆の前で話せると思うな」
その後少し話をして解散した。
彼女が自分なりの答えを見つけクラスメイト達に話せたらいいな。
翌日。
ホームルーム前。
教室のドアが開く。
白石が来る。
ざわつく教室。
白石は頭を下げる。
「ごめんなさい」
クラス委員が、
「いや謝るなよ」
と言う。
他の生徒達も、
「戻ってきてくれてよかった」
皆から励ましを受けた白石の目は少し潤んでいた。
しかし完全復活ではない、
練習中、
セリフを噛む。
白石が固まる。
空気が張り詰める。
王子役が、
「俺もさっき噛んだからセーフ」
と言う。
みんな笑う。
白石も少し笑う。
放課後、僕は白石と話す。
「少しは肩の力、抜けた?」
「皆確かに白石に期待を寄せてる、でもそれ以上に白石の気持ちを尊重してるって気づけたかな?」
「期待されるのが怖かった」
「でも、それだけじゃなかったんだね」
「今まで役を演じる時は失敗を恐れてたけど、今回の件で失敗をすることはダメじゃないって気づけたよ」
「演劇部の皆もそうだったんだろうな、もっと早く気づけたら楽だったのに」
そう微笑みながら語る白石は昨日までの白石の顔とは別物だった。
「まだ高二なんだからこれからやり直せばいいよ」
「やり直せる内にやり直せることは幸せだから」
「そうだね、ありがと!東雲!」
放課後、すべての経緯を深冬ちゃんと話す。
「今回の事件って犯人がいなかったですよね」
「そうだね、でも傷ついてた人はいた」
「悪意のない期待が人を傷つけるなんて皮肉な話だけどね」
白石の一件が解決してからは早かった。
文化祭前日。
教室は大忙し。
大道具完成。
衣装完成。
最後の通し練習。
練習終了後。
白石が皆の前に立つ。
「たぶん明日も緊張して、失敗もします」
教室に小さな笑いが起こる。
白石も少しだけ笑った。
「でも、最後までやり通しましょう!」
「だから——みんな、よろしくお願いします」
拍手。
僕はそれを後ろから見る。
窓の外には夕焼け。
文化祭まで、あと一日。
ラグビー、やればやるほどハマっていってます。
今のところポジションはウイングがスクラムハーフがかなりおもしろそう。




