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青の亡霊ー真実を暴かない探偵は、正しさを後悔している―  作者: 天水 こうら
第五章 幕が上がる前に

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主役の涙

夕焼けに染まる河川敷は、思ったより静かだった。


川の流れる音と、時々吹き抜ける風の音だけが耳に入る。


制服の裾を押さえながら、深冬ちゃんが小さく呟く。


「……本当にいるんでしょうか」


「分からない。でも——」


僕は前を見たまま答える。


「ここまで来たなら、確かめるしかない」


土手を上がった、その時だった。


「……いた」


深冬ちゃんの声が、少しだけ強張る。


視線の先。


夕日に照らされた河川敷のベンチに、一人の女子が座っていた。


膝を抱えるように座り、川をじっと見つめている。


風で揺れる髪。


見慣れない私服。


間違いない。


白石紗奈だった。


僕はゆっくり近づく。


でも——


「……来ないで」


その声は小さいのに、驚くほど強かった。


「クラスの人に……今の私、見られたくないから」


深冬ちゃんが息を呑む。


でも僕は、立ち止まったまま言う。


「じゃあ、クラスメイトとしてじゃなくていい」


白石の肩が、ぴくりと揺れた。


「ただ——少しだけ話せない?」


しばらく沈黙が流れる。


やがて白石は、小さく笑った。


……でも、その笑い方は。


今まで見たどんな笑顔より、苦しそうだった。


「……みんな、私に期待しすぎなんだよ」


その言葉に、思わず足が止まった。


「……期待しすぎ?」


僕がそう聞くと、白石は川の流れを見たまま、小さく笑った。


「だってそうでしょ」


その声は、笑っているのに全然明るくなかった。


「“白石なら大丈夫”」


「“白石ならできる”」


「“演劇部なんだから余裕でしょ”」


一つずつ言葉を並べるたびに、胸の奥が少しずつ重くなっていく。


「みんな、悪気なんてないんだよ」


白石はそう言って、自分の膝をぎゅっと抱えた。


「むしろ応援してくれてる」


「期待してくれてる」


「信じてくれてる」


そこで一度、声が止まる。


そして——次に出た声は、少し震えていた。


「……だから、できないなんて言えないんだよ」


風が吹く。


河川敷の草が揺れて、ざわざわと音を立てた。


隣で深冬ちゃんが、静かに白石を見つめている。


僕も、すぐには言葉が出なかった。


たぶん白石は、誰かに責められて壊れたんじゃない。


誰にも責められていないからこそ——逃げられなくなった。


「去年も、そうだったんですか?」


深冬ちゃんが、そっと聞いた。


白石は少しだけ目を伏せた。


「……うん」


「去年も、本番前に怖くなって逃げた」


「でも、今年は逃げないって決めてたのに……」


そこで、白石の声が詰まる。


「気づいたら、またここに来てた」


沈黙。


川の音だけが、静かに流れていく。


その時、深冬ちゃんが一歩前に出た。


「……白石先輩」


白石が、ゆっくり顔を上げる。


深冬ちゃんは、まっすぐ白石を見ていた。


「逃げたんじゃなくて——限界だったんじゃないですか」


その一言に、白石の目が大きく揺れた。


そして——


ぽろり、と。


夕日に照らされた頬を、一筋の涙が伝った。

金欠過ぎて1週間所持金0生活を送ってました。

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