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青の亡霊ー真実を暴かない探偵は、正しさを後悔している―  作者: 天水 こうら
第五章 幕が上がる前に

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19/29

主役の涙

疲

夕焼けに染まる河川敷は、思ったより静かだった。


川の流れる音と、時々吹き抜ける風の音だけが耳に入る。


制服の裾を押さえながら、深冬ちゃんが小さく呟く。


「……本当にいるんでしょうか」


「分からない。でも——」


僕は前を見たまま答える。


「ここまで来たなら、確かめるしかない」


土手を上がった、その時だった。


「……いた」


深冬ちゃんの声が、少しだけ強張る。


視線の先。


夕日に照らされた河川敷のベンチに、一人の女子が座っていた。


膝を抱えるように座り、川をじっと見つめている。


風で揺れる髪。


見慣れない私服。


間違いない。


白石紗奈だった。


僕はゆっくり近づく。


でも——


「……来ないで」


その声は小さいのに、驚くほど強かった。


「クラスの人に……今の私、見られたくないから」


深冬ちゃんが息を呑む。


でも僕は、立ち止まったまま言う。


「じゃあ、クラスメイトとしてじゃなくていい」


白石の肩が、ぴくりと揺れた。


「ただ——少しだけ話せない?」


しばらく沈黙が流れる。


やがて白石は、小さく笑った。


……でも、その笑い方は。


今まで見たどんな笑顔より、苦しそうだった。


「……みんな、私に期待しすぎなんだよ」


その言葉に、思わず足が止まった。


「……期待しすぎ?」


僕がそう聞くと、白石は川の流れを見たまま、小さく笑った。


「だってそうでしょ」


その声は、笑っているのに全然明るくなかった。


「“白石なら大丈夫”」


「“白石ならできる”」


「“演劇部なんだから余裕でしょ”」


一つずつ言葉を並べるたびに、胸の奥が少しずつ重くなっていく。


「みんな、悪気なんてないんだよ」


白石はそう言って、自分の膝をぎゅっと抱えた。


「むしろ応援してくれてる」


「期待してくれてる」


「信じてくれてる」


そこで一度、声が止まる。


そして——次に出た声は、少し震えていた。


「……だから、できないなんて言えないんだよ」


風が吹く。


河川敷の草が揺れて、ざわざわと音を立てた。


隣で深冬ちゃんが、静かに白石を見つめている。


僕も、すぐには言葉が出なかった。


たぶん白石は、誰かに責められて壊れたんじゃない。


誰にも責められていないからこそ——逃げられなくなった。


「去年も、そうだったんですか?」


深冬ちゃんが、そっと聞いた。


白石は少しだけ目を伏せた。


「……うん」


「去年も、本番前に怖くなって逃げた」


「でも、今年は逃げないって決めてたのに……」


そこで、白石の声が詰まる。


「気づいたら、またここに来てた」


沈黙。


川の音だけが、静かに流れていく。


その時、深冬ちゃんが一歩前に出た。


「……白石先輩」


白石が、ゆっくり顔を上げる。


深冬ちゃんは、まっすぐ白石を見ていた。


「逃げたんじゃなくて——限界だったんじゃないですか」


その一言に、白石の目が大きく揺れた。


そして——


ぽろり、と。


夕日に照らされた頬を、一筋の涙が伝った。

金欠過ぎて1週間所持金0生活を送ってました。

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