表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青の亡霊ー真実を暴かない探偵は、正しさを後悔している―  作者: 天水 こうら
第五章 幕が上がる前に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/25

主役が消えた七日前

風邪拗らせてまだ完治してません、つらい。

文化祭まで、あと七日。


たった一週間。


でも、主役がいない演劇にとっては——致命的なくらい短い時間だった。


放課後の廊下を歩きながら、僕はさっきの言葉を頭の中で繰り返していた。


——簡単には戻ってこないよ。


隣を歩く深冬ちゃんも、珍しく何も言わない。


いつもなら何か一言は挟んでくるのに、今はただ僕の隣を静かに歩いている。


やがて、前を歩く女子生徒が立ち止まった。


演劇部の部室前。


彼女はドアノブに手をかけたまま、小さくため息をつく。


「……ここまで来たんだから、もう隠しても意味ないか」


夕日が差し込む部室の前で、


ようやく——白石紗奈という人間の話が始まろうとしていた。


女子生徒は、部室のドアを開けながらぽつりと呟いた。


「白石ってね……ほんと、断れない人なんだよ」


「断れない?」


僕が聞き返すと、彼女は苦笑した。


「頼まれたら断れないし、期待されたら応えようとするし、褒められたらもっと頑張らなきゃって思うタイプ」


「……真面目なんですね」


深冬ちゃんが小さく言う。


「真面目っていうか、不器用なんだよ」


彼女はそう言って、部室の椅子に腰かけた。


「去年もそうだった。最初はみんな応援してたんだよ。“白石なら大丈夫”って」


その言葉に、胸の奥が少しだけ重くなる。


応援しているだけ。


信じているだけ。


それなのに——人は追い詰められる。


「じゃあ去年、白石はどこにいたの?」


僕がそう聞くと、女子生徒の表情が少しだけ曇った。


「……保健室」


「え?」


「去年も、本番前にいなくなって——最後は保健室で見つかった」


深冬ちゃんが、隣で小さく息を呑む。


「でも」


女子生徒は、そこで言葉を切った。


「今年は、たぶんそこにはいないと思う」


「なんで?」


僕が問い返す。


すると彼女は、まっすぐ僕を見た。


「だって今年の白石——去年より、ずっと追い詰められてたから」


空気が、少しだけ冷たく感じた。


「去年より、追い詰められてた……?」


僕がそう呟くと、女子生徒は小さく頷いた。


……そんな話、同じクラスの僕ですら知らなかった。

表では笑って、裏で一人で抱えていたんだ。


「今年の白石、ずっと無理してたから」


「クラスの練習が終わったあとも、一人で台本読み返してたし」


「セリフ噛んだだけで、“もう一回やらせて”って何度も言ってた」


深冬ちゃんの表情が、少しずつ曇っていく。


「誰か、止めなかったんですか?」


その問いに、女子生徒は苦笑する。


「止めたよ。でも——」


彼女は、少しだけ目を伏せた。


「“大丈夫”って笑うから」


その一言が、やけに胸に刺さった。


大丈夫。


その言葉ほど、人を遠ざけるものはないのかもしれない。


「……白石って、落ち込んだ時に行く場所とかないの?」


僕が聞くと、女子生徒は少しだけ考えてから口を開いた。


「一つだけ、心当たりがある」


「河川敷、白石は悩んだら毎日河川敷に行ってる」


「え?」


「白石、昔から一人になりたい時、あそこに行くんだよ」


「川の音を聞いてると、少しだけ落ち着くんだって——前にそう言ってた」


深冬ちゃんが、僕を見る。


その目はもう迷っていなかった。


「先輩——行きましょう」


文化祭まで、あと七日。


そして——白石を見つけられる時間は、もっと短いかもしれなかった。





さむわんへるつが面白い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ