主役の仮面
最近、大学に慣れてきたので更新ペース上げます。
教室のざわめきは、しばらく収まりそうになかった。
「王子役やりたい奴いる?」
「いや絶対ヒロインだろ」
好き勝手な声が飛び交う。
僕は適当に聞き流しながら、窓の外を眺めていた。
……こういう空気は、嫌いじゃない。
そんなことを考えていると、クラス委員が黒板を叩いた。
「静かに! 役決め始めるよ!」
教室の視線が、一斉に前へ集まる。
演目は現代風にアレンジを加えた白雪姫になった。
そして、一番大事な主役の名前が挙がった。
「主役は——白石紗奈でどう?」
教室のあちこちから賛成の声が上がる。
「確かに似合う!」
「ビジュアル強いしな」
「演劇部だしぴったりじゃん!」
名前を呼ばれた彼女は、前の席で小さく肩を揺らした。
「え……わ、私?」
困ったように笑っている。
でも——
その笑顔は、どこか引きつって見えた。
そして次の日から文化祭準備が始まった。
準備は特に大きな問題も起こることなく、進んでいった。
本番までのタイムリミットに追われながらも準備は円滑に進み、
とうとう文化祭は一週間前に迫っていた。
そんな時、事件は起きた。
「白石、今日も学校に来てないの?」
「流石に本番一週間前だから連絡したんだけど連絡が返ってこないんよ。
先生から体調不良って聞いてはいるんだけどな」
「もう本番近いから心配だな」
そんな会話が聞こえてきた。
ただ僕にはただの体調不良には思えない。
演劇の主役が決まった時の白石の顔がどうにも引っかかる。
教室の空気が、少しだけ重くなる。
「でも、LINEは既読ついてるんだよな」
クラスメイトたちが不安そうに話している。
僕は、ふと前の席を見る。
白石の机。
そこだけ、時間が止まったみたいに何も変わっていない。
教科書も、筆箱も、昨日のまま。
……まるで、“明日も来るつもりだった”みたいに。
「東雲?」
名前を呼ばれて顔を上げる。
クラス委員がこちらを見ていた。
「ぼーっとしてどうした?」
「……いや、少し気になることがあって」
そう言って、もう一度白石の席を見る。
その時だった。
白石の机。
教科書の間にプリントじゃない一枚の紙が挟まれている。
折りたたまれた紙。
小さく読んでと書かれている。
そこに書かれていたのは——
“私には、主役なんて無理です”
思わず、息が止まった。
しかも、その文字は途中から震えていた。
まるで、泣きながら書いたみたいに。
「……ただの体調不良じゃない」
小さく呟く。
今回は、お金でも、過去でもない。
これは——
“期待”に潰されかけている誰かの事件だ。
紙を握ったまま、しばらく動けなかった。
「東雲、それ……何?」
クラス委員の声で我に返る。
しまった、と思った時には遅かった。
周りの視線が、一気に僕の手元へ集まる。
「……いや、何でもない」
咄嗟に紙をポケットへしまう。
今ここで見せるべきじゃない。
もし白石が誰にも知られたくなくて残したなら——なおさらだ。
その日の放課後。
どう動くべきか考えながら廊下を歩いていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「先輩、すごく悩んでますけどどうしました?」
振り返る。
そこには、少し首を傾げた深冬ちゃんが立っていた。
「……そんな顔してた?」
「してました」
即答だった。
そして彼女は、じっと僕を見る。
「私にあんなこと言っておいて。
また、一人で抱え込むつもりですか?」
その言葉に、少しだけ苦笑する。
……前なら、そうしてたかもしれない。
でも今は違う。
「いや——今回は、一緒に来てほしい」
深冬ちゃんの目が、少しだけ丸くなる。
でも次の瞬間、ふっと笑った。
「最初からそのつもりです」
最近財布を変えました、革の触り心地が気持ちよし




