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青の亡霊ー真実を暴かない探偵は、正しさを後悔している―  作者: 天水 こうら
第四章 失踪編

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それでも、選ぶ。

大学が忙しすぎる、サークルは多分ラグビーにします。


夜は、思っていたよりも静かだった。


観光の疲れのせいか、

身体はすぐに眠気を求めていたのに、

頭だけが妙に冴えている。


布団に入って、天井を見上げる。


――ごめんなさい。


あの言葉だけが、何度も繰り返される。


「……僕に、何を謝ってるんだよ」


小さく呟いてみても、答えは返ってこない。


隣から、かすかな寝息が聞こえる。


深冬ちゃんは、もう眠っているみたいだった。


規則正しい呼吸音。


それを聞いていると、少しだけ現実に引き戻される。


「……明日、か」


いよいよ、水瀬に会う。


逃げ続けていた過去と、

真正面から向き合う日だ。


怖くないと言えば嘘になる。


でも――


「逃げないって、言ったしな」


目を閉じる。


今度は、少しだけ素直に眠れそうだった。


――そして、翌日。


空は、やけに澄んでいた。


皮肉なくらい、何も起こりそうにない朝。


支度を済ませて、外に出る。


「おはようございます、先輩」


「おはよう」


深冬ちゃんは、昨日と変わらない表情で立っていた。


でも、その目だけは少しだけ鋭い。


今日がどういう日か、ちゃんと分かっている目だ。


「……行きますか」


「ああ」


短いやり取り。


それだけで十分だった。


歩き出す。


教えられた場所へ向かって。


道中、ほとんど会話はなかった。


観光地の賑わいも、今日は遠く感じる。


やがて、人通りが減っていく。


観光客の姿も消え、

代わりに静かな住宅街へと変わっていく。


「……この辺り、ですね」


深冬ちゃんがスマホを確認する。


僕も足を止める。


目の前にあるのは――


古びた建物だった。


手入れはされているはずなのに、

どこか“時間が止まっている”ような空気。


門の前で、足が止まる。


「ここに……いるのか」


無意識に、喉が鳴る。


逃げ場はない。


ここが、終わりの場所だ。


「先輩」


隣から声がする。


「大丈夫ですか?」


その問いに、少しだけ笑う。


「大丈夫じゃないけど」


正直に言って、


「それでも行くよ」


一歩、前に出る。


門に手をかける。


ほんの少しだけ、ためらって――


押した。


軋む音とともに、門が開く。


その先に、


一人の少女が立っていた。


「……来ると思ってた」


静かな声だった。


逃げ場のない場所で、


ようやく、物語が追いつく。


「東雲くん」


門の先に立っていたのは、見覚えのある顔だった。


でも――


どこか違う。


「……来ると思ってた」


水瀬は、小さくそう言った。


逃げる様子も、驚く様子もない。


ただ、最初から分かっていたみたいに。


「久しぶりだね、水瀬」


自分でも驚くくらい、声は落ち着いていた。


「……うん」


短い返事。


それだけで、会話が途切れる。


風が、間を埋めるみたいに吹いた。


「探してた」


ようやく、言葉を絞り出す。


「どうして、いなくなったんだ」


問いかける。


でも本当は――


それより先に聞きたいことがあるのに。


水瀬は、少しだけ目を伏せた。


「……ごめんなさい」


その一言で、全部が止まる。


やっぱり、それだった。


「それ、何に対して言ってるんだよ」


思わず、声が強くなる。


「夏蓮に? それとも——」


一瞬だけ、言葉に詰まる。


「……僕に?」


水瀬は、ゆっくりと首を横に振った。


「どっちも」


静かな声だった。


「でも、一番は……東雲くんに」


心臓が、強く打つ。


「……なんで」


分からない。


ずっと、そこだけが分からなかった。


「僕はただ、真実を——」


「分かってる」


被せるように、水瀬が言った。


「東雲くんは、何も間違ってない」


――その言葉は、聞いたことがある。


でも、違う。


同じ言葉なのに、重さが違う。


「でもね」


水瀬は、ゆっくりと顔を上げた。


その目は、逃げていなかった。


「私は、分かっててやったの」


空気が、張り詰める。


「……何を」


「東雲くんなら、真実を選ぶって」


「絶対に、逃げないって」


一歩、こちらに近づく。


「だから、関わった」


「……は?」


思考が、一瞬止まる。


「ヒントも、情報も」


「全部、偶然じゃない」


「東雲くんが気づくように置いたの」


背筋が、冷たくなる。


「……お前」


何を、言ってるんだ。


「利用したの」


はっきりと、言い切った。


逃げも、言い訳もない声で。


「東雲くんなら壊してくれるって思った」


「私じゃ壊せなかったから」


「だから——任せたの」


言葉が、出ない。


理解はできる。


でも、納得はできない。


「ふざけるなよ……」


ようやく出た声は、掠れていた。


「それで、全部終わると思ったのか?」


「思ってた」


即答だった。


「終わるって信じてた」


「でも違った」


その目が、わずかに揺れる。


「壊れただけだった」


沈黙が落ちる。


「夏蓮も」


「東雲くんも」


「……私も」


最後の一言は、ほとんど聞こえなかった。


「だから、ごめんなさい」


もう一度。


今度は、少しだけ震えていた。


「あなたの正しさに、甘えた」


その言葉が、胸に刺さる。


「あなたなら、全部正しくしてくれるって思った」


「でも——」


一歩、距離が縮まる。


「それって、最低だよね」


否定できない。


でも、肯定もできない。


感情が、うまく形にならない。


「……なんで」


やっと、それだけ言えた。


「なんで僕だったんだよ」


水瀬は、少しだけ笑った。


泣きそうな顔で。


「優しかったからだよ」


その言葉が、胸の奥に落ちる。


優しいなんて、そんな綺麗なものじゃない。


ただ——


逃げなかっただけだ。


「……そっか」


小さく、息を吐く。


頭の中が、不思議と静かだった。


怒りも、後悔も、全部あるはずなのに。


それでも——


「利用されたことは、ムカつくよ」


正直に言う。


水瀬の肩が、わずかに揺れた。


「勝手に期待して、勝手に任せて」


「その結果がこれなら、笑えない」


一歩、前に出る。


「でも」


言葉を、切る。


「それでも、選んだのは僕だ」


水瀬が、顔を上げる。


「お前にヒントを置かれても」


「誘導されても」


「最後に“やる”って決めたのは、僕だ」


逃げない。


今度は、自分の意思で。


「だから」


少しだけ、息を吸う。


「全部、お前のせいにはしない」


その言葉に、水瀬の目が見開かれる。


「……でもな」


続ける。


「だからって、お前の罪が消えるわけじゃない」


「やったことは、ちゃんと背負え」


静かに、言い切る。


責めるでもなく、突き放すでもなく。


ただ、事実として。


「……うん」


水瀬は、小さく頷いた。


「それでいい」


その一言が、やけに軽く聞こえた。


でも——


少しだけ、救われたようにも見えた。


「で」


僕は、水瀬を見る。


「どうするんだよ、これから」


問いかける。


逃げ場を与えない質問。


水瀬は、少しだけ考えてから——


「……向き合う」


そう言った。


「逃げないで」


どこかで聞いた言葉だと思った。


「全部」


その声は、もう震えていなかった。


それを聞いて、


僕は少しだけ笑った。


「じゃあ、終わりだな」


長かった話が、ようやく一区切りつく。


正しさじゃない。


誰かのためでもない。


「……これでいい」


これは、


僕が選んだ答えだ。


古戦場ができない。

あとハーゼ最終間に合いました、4アビは諦め。

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