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青の亡霊ー真実を暴かない探偵は、正しさを後悔している―  作者: 天水 こうら
第四章 失踪編

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終わらない過去と、京都の夜

バイトが忙しすぎる

朝の駅は、思っていたよりも騒がしかった。


人の流れは途切れることなく、

改札の向こうへ、次から次へと飲み込まれていく。


そんな中で、僕は一人、

ホームの端に立っていた。


手には、ボストンバッグ。

その重さは旅の長さを予感させる。


旅行に心を躍らせたいところだが今回の旅の本質を見失ってはいけない。


過去の続きを終わらせるためだ。


「おはようございます、先輩」


後ろから声がして、振り返る。


深冬ちゃんが、そこに立っていた。


昨日と同じような落ち着いた服装。


「早いね」


「先輩が遅れるとは思ってなかったので」


軽く言って、隣に並ぶ。


「……本当に行くんですね」


ぽつりと、深冬ちゃんが言う。


確認でも、迷いでもない。

ただの事実のなぞり方みたいな声だった。


「今さらやめる理由もないしね」


そう答えると、

彼女は小さく頷いた。


発車のアナウンスが流れる。


電車がホームに滑り込んできて、

風が、少しだけ強く吹いた。


「先輩」


ドアが開く直前、

深冬ちゃんがこちらを見る。


「今回は、“逃げない”って言ってましたよね」


その言葉に、

少しだけ笑ってしまう。


「言ったね」


「なら、最後まで付き合ってもらいますから」


「……覚悟しておくよ」


扉が開く。


僕たちは、そのまま乗り込んだ。


動き出した電車の中で、

窓の外の景色が、ゆっくりと流れていく。


戻れない、という実感だけが、

やけにはっきりと残った。





「ところで、京都の親戚の方とは連絡がついたのですか?」


「明日の昼頃にアポをとったから今日一日はフリーだね。

少しの間、京都旅行で楽しもうか」


「あ、それなら私行きたい所があるんですけど!」


「どこ?」


「千本鳥居見に行ってみたかったんです」


「それじゃあ行こうか」




写真やテレビで見たことはあったけど、実物はここまで神秘的だとは思わなかった。


「凄く綺麗じゃないですか?

ずっと来てみたかったんですよね」


「凄く神秘的だ、写真だけじゃこの素晴らしさを体験できなかったな」


深冬ちゃんが近くの人に何かを話しかけている。


「写真撮るのではやく来てください」


彼女の行動力と早さに驚かされてばかりだ。


「僕も写って大丈夫なのかな?」


「今回、目的があるとはいえ旅行なので。

一人は寂しいのではやく入ってくださいよ、先輩!」


彼女と撮った写真は色褪せることはないだろう。


「それと、ここの名物知ってますか?」


「いや全然知らないな」


「すずめの丸焼きが有名なんですよ!

少し気になりませんか?」


「ちょっと気になるね、食べに行こうか」


「いいですね!名所を見て名物を食べる、これぞ旅行って感じがします」


その後、彼女と京都を回ったがとても楽しかった。


ただそれは、嵐の前の静けさなのだろうと思ってしまう。





次の日に備えるため叔父が経営している旅館にやってきた、受付をする時の叔父の顔が引きつっていた事に疑問を持ちながら部屋に行くと理由が分かった。


「まず、深冬ちゃんに謝らないといけないことがある」


「内容は言わなくても分かりますよ、親戚に女の子と一緒に行くと言ってなくて、ダブルベッドの部屋になってしまったことですよね?」


「本当に申し訳ない、今から叔父さんに変えれないか話してくるよ」


「別に構いませんよ?」


「え?」


「同じベッドだからって先輩が何かをしてくる人ではないってことは分かってますし、

それに別に嫌じゃないですよ?」


嬉しい言葉だが僕が許せない。


「それでも僕が許せないから叔父に聞いて、部屋が変えられないならソファーで寝るよ」


「私、明日に備えてしっかり寝ることは大事だと思うんですよ。

ソファーで寝たら体を休めることは難しいと思うんです、なのでベッドで寝てください」


そこまで言われると、断れない。

腹をくくるしかない。


「分かった、それでも同じベッドで寝る以上、充分に気をつけて寝るよ」


「それでいいんですよ、先輩」


温泉や食事済ませ、いよいよ睡眠の時間がやってくる。


「それじゃあ電気消すね」


電気を消してしまうと何も見えない。

深冬ちゃんからできるだけ離れ目を瞑る。

早く寝て、邪念を消さなければと思っていたら、深冬ちゃんが話しかけてきた。


「まだ起きてますか?」


「目が冴えてね」


「それなら、私の話を聞いてくれませんか?」


「なんでも聞くよ」


「私のお姉ちゃんがいなくなってからの話を」


暗闇の中で、少しだけ間が空いた。


呼吸の音だけが、やけに近く感じる。


「お姉ちゃんがいなくなった後――

 私は、全部知ろうとしたんです」


「……全部?」


「どうしてあんなことになったのか。

 誰が悪かったのか。

 何が間違ってたのか」


布団がわずかに擦れる音がした。


「でも、調べれば調べるほど分からなくなりました」


「正しさって、どこにもなかったんです」


その言葉は、静かだった。


でも、重かった。


「先輩は、正しかった」


「お姉ちゃんも、間違ってなかった」


「だからこそ、壊れるしかなかったんだと思います。

でも――」


「……残された人のことも、考えてほしかったです」


背中に、そっと触れるぬくもりがあった。


「……先輩は、いなくならないでくださいね」


身を寄せ発したその声は少し震えていた。





最近、缶詰にはまってます

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