目覚めし者の夢8
眼下に意識を集中する。下の二体はまだ気づいていない。
「「……」」
一瞬の目配せ。それから同時に飛び降りる。
「ッ!!?」
突然降って来た相手に、俺の股の下のLD兵は何が起きたのかも分かっていないだろう。
ほとんど抵抗できずに崩れ落ちたそいつの首筋に、手の中の得物を突き立てる。
「ッ!」
同時に親指がスイッチを押し込み、奴の体がビクンと跳ねる。
「……よし」
その動きが奴の見せた最後の抵抗だった。奴はすぐにぐったりと動かなくなり、アイカメラも俺を追わない。
ナイフを引き抜く。
今の一撃でAIを破壊したか、そうでなくても体内のパーツの多くは機能を失っただろう。
何より全身に配置されているスタビライザー用のセンサーが焼き切られたはずだ。こいつが仮に起き上がっても、自分が今地球で立っているのか宇宙で寝ているのかさえ分かるまい。
「そっちは?」
「無力化完了」
同じくエリカも仕留めた。太ももの間に挟みこんだ相手の頭を解き放ち、首からナイフを引き抜く。
「あのトラックの荷台に隠そう」
彼女が示した幌付きのその荷台に、二体のLD兵を放り込んでから行動開始。
幸いその間敵の来襲はなかった。
――だが、今のが最後ではないというのは、テニスコート前の交差点を右折した時点ですぐに分かった。
「アルファ1よりCP。現在テニスコート前の交差点を右折。バラック群の入口に到着しましたオーバー」
「CP了解。どうやらあまり簡単には通してくれそうにない。バラック群内部に複数のLD兵の部隊を発見した。まだこちらの接近に気付いた様子はないが、すぐに動きそうもない。十分に警戒せよ。CPアウト」
このバラック群は警備部隊の重点警戒エリアからは外れている――そういう情報があったし、知識としてそれは知っていた。
だが、どうやらその辺も書き換えが必要らしい。
「ついてないな」
俺がそう漏らすと、エリカも俺より幾分狭い肩を小さく竦めた。
「仕方ない。警戒して進もう」
二人でバラック群の入口に身を潜める。
その周囲を2mを優に超えるコンクリート壁で覆われたこの広大な区画の中に、一つの町と言っていい程にバラックが密集している。
サイストック二層と三層には警備部隊の把握していない区画や建物があるが、ここもそうした場所と同様、かつてLDが取引に応じて黙認した地域だ。
「クリア」
「クリア」
その入口の周囲を警戒しつつ中へ。
大小様々な――しかし全てバラックと呼ぶ以外になさそうなほどに粗末な――建物が野放図に並び、通りというよりバラック同士の隙間とでも言った方がよさそうな通路が奥へと伸びている。
まだLDが存在したころ、その常態化した腐敗と、それによって蔓延した贈収賄はサイストック外部からの浮浪者や多重債務者を始め、様々な脛に傷のある経歴の者達――それこそ、普通の物件にはまかり間違っても入居できないような経歴の者達を住まわせるためのこうしたバラック群建設にもふんだんに用いられた。
元々都市の自警団を発祥とするLDが、金次第でその都市に分かり切った厄介者を受け入れるというのも腐敗のなせる業だろうか。
とにかく、そうした人間を必要とする、これまた叩けば埃しか出ないような自称実業家や経営者がたんまりと支払ったのは想像に難くない。
そうして作られたこのタコ部屋の町は、一目でまともな住民を想定していないと分かる程にボロボロのプレハブとトタンの壁で占められていた。
そのバラックの町を、キルハウスの如く周囲に警戒しながら進んでいく。
障害物が多く、かつ隙間や穴も無数にある。待ち伏せや監視にはもってこいの場所。
「……アルファ1よりCP」
その隙間を侵入者側である俺たちが利用できることもある。
錆の塊と化したドラム缶と、その保管場所だったのだろう、半壊したバラックのトタンに身を隠しながらその隙間から覗く先には、四体のLD兵の姿。
彼等は周囲に馴染むように偽装された扉をブリーチングラムでこじ開けた直後だった。
「こちらCP」
「警備部隊がA24バンカーをこじ開けています。あそこはもう使えない」
警備部隊の追撃を受けた場合など、非常事態に身を隠し救助を待つためのバンカー。
そのうちの一つがここにも設置されていた訳だが、どうやら書き換えなければならないのは重点警戒エリアについてだけではないらしい。
「CP了解。利用者の姿は確認できるか?」
目を走らせる。バンカーに突入した連中が出てくる。
「アルファ1よりCP。利用者は確認できな……いえ」
そして、俺も彼女も外で待っている連中の後ろに気付いた。
外で周囲を固めていたLD兵の足で見えにくいが、何かが倒れているそこを。
「……既に死亡しています。ここからでは身元確認は不可能です」
恐らく他のローダーか都市モグラ、もしくは野良モグラだろうか。
その報告を受けたエルマさんが僅かに息を吐くのが聞こえた。
「……了解だ。連中が何を探しているのかは知らないが、そこを迂回するルートを送る」
直後、支給されたデバイスに着信。
「アルファ1了解。ルート情報確認しました。敵部隊を迂回して進みます。アルファアウト」
そっとドラム缶を離れる。
連中の意識がこちらに向く前に、一区画離れた場所の水路跡を利用するために。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




