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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
スリーカード
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スリーカード15

 周囲を改めて確認。見えている範囲に人の気配はない。


「よし……」

 土手になっている道路を横断する。少しでも姿を晒す時間を短くするため駆け足で。

 道路を渡り、向かい側に生い茂る背の高い草に身を隠す。

 真ん中に伸びている小さな道にはさっきのタイヤ痕がしっかりと残っていて、ここをつい最近通行したことが伺える。


 つまり、ここにトラップがある可能性は低い。

 子供が通れる場所にトラップを設置する可能性がないと考える程楽天家ではないが、何度も通過しているところを見るに安全である可能性は高い。


 そのタイヤ痕を辿るように、真ん中に伸びる道を進んでいく俺たち。

 周囲の草むらは、恐らくはかつての休耕地なのだろう、この道が周囲よりも僅かに高くなっていて、その昔はあぜ道だったのだろうというのがなんとなく想像できた。

 そのあぜ道の奥、先程から見えていた民家の前庭とでも言うべき場所は草が刈り取られていて、ちょっとした空き地になっている。

 そしてその奥にある件の家は石垣の上に築かれており、この休耕地全体を見渡せそうだった。

 つまり、俺たちもあの家から見られているかもしれない――その想像をしつつ、出来るだけ頭を下げて移動する。


「待って」

 その進行が一時停止したのは、あぜ道の途中に現れたちょっとしたぬかるみに出くわした時だった。

 元々用水路があったのだろうそこは、今では水路と地面との差がなくなっていて、ちょろちょろ流れる――というかしみ出している水によって辺りにぬかるみが広がっている。

 そしてその影響か、いくつかの足跡がそこを踏み荒らした=ここを通っている事が分かった。


 それを見下ろしながら、エリカがなにやら数えている。

 それを終えると更に近づいて、足跡のうち大きい方の横に自分のスマートフォンを並べてサイズを比べる。

「男一人、女一人、女の方はかなり小さい……というか子供だね。多分小学校低学年かそれより小さいぐらいの。対して男の方はかなり大柄だ」

 彼女がスマートフォンをしまいながらそう結論付け、俺はそれを聞きながら舌を巻いていた。

 足跡の数とサイズ、爪先の向き等、エリアを絞ってそれらを確かめることで、その足跡の主を推測する――俺の頭にも知識として入っていたが、それを実際に目の前で、一瞬で実行されると、ただ驚くより他にない。


「大したものだ」

 同じようにぬかるみの端に立っていても、彼女ほど素早くはその答えに達しなかっただろう。

「そしてそんな子供を連れて、サイストック内を長く移動できるとも思えないな」

「そういう事。つまり……」

 彼女の視線が俺と同じ方向=正面の民家に向く。

 消去法で言えば、あそこが一番可能性が高い。


「ご対面は近いってことか」

「驚かせないで愛想よく、だね」

 行動方針は決まった。

 とりあえず今提げている銃は後ろに回しておくべきかもしれない――相手に“その気”が見られるまでは。


 ぬかるみを迂回してその民家の方へ更に進む。

 程なくして茂みは終わり、そこから先は前庭に出る。即ち、遮蔽物の類が何もない場所を横切って家に近づくということ。

「前庭には誰もいなさそうだな」

 目を凝らす。恐らくタイヤ痕の主だろう年季の入った子供用の自転車が一台、石垣のすぐ近くに停まっている以外には人のいる痕跡も気配もない。

 同じものを見ていたエリカの結論は先程までと変わらなかった。

「とりあえず、銃には手をかけないで行こう」


 しかし、それに答えたのは俺ではなかった。

「賢明だ」

「「ッ!!?」」

 背後からの声。反射的に振り返ろうとする俺たち。今出したばかりの方針は早速破られる。

「動くな!」

 そしてそれはすぐに中断させられた――その声と、こちらに向けられた、アクセサリーの類のないM4カービンの銃口によって。


「くっ……」

「武器を捨てろ」

 振り向いた先の声の主=エリカの推測通りのがっしりとした巨漢。

 紺色の作業着の上にプレートキャリアを纏い、頭にかぶった野球帽には周囲の雑草と同様のものがいくつか巻き付けられている。

 そしてその野球帽の上から電子イヤマフを兼ねたインカムが、これまた草を巻きつけた状態でセットされている。


 鋭い目つきと、それより手前でこちらを睨む銃口。

 脅しつけているそれらはしかし、ただの脅しではないだろう――セレクターはしっかりとセミオートに入っている。

 対してこちらは反応が遅れ、銃口はまだ下を向いたまま。

「「……」」

 ならば、従った方がいいに決まっている。


「撃つな。撃つなよ」

 言いながら右手に銃を持ち、左手を挙げながらゆっくりとプライマリーを地面に寝かせる。

 すぐ隣でエリカも同様に従っている。


「両手を頭の後ろに組んで、右足から片方ずつ膝をつけ」

 これもまた、指示通りにするしかない。

 俺たちが指示に従ったのを見届け、それから男は慣れた様子で俺たちと一定の距離を保ったまま背後に回る。恐らく茂みに隠れていたのだろう、その足取りは草むらの端を踏んでも平然としている。


 その回り込む瞬間に見えるプレートキャリアのパッチ=アシュファーラ空軍第六航空団第503戦闘飛行隊「ゴーストライダーズ」のそれ。

 レプリカでなければ彼はパイロットだ。それも、精鋭と誉高いエリート部隊の。


 空軍の誇る精鋭部隊。そのパイロットが、こんなところで何をしているのか――答えてくれそうにないのはどれ程馬鹿でも分かる状況だ。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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