スリーカード14
「前方敵影無し」
そんな駐車場の車両の一台に身を隠して周囲と進行方向を確認。
これまでの入り組んだ屋内と異なり、長距離でも射線が切れない場所であるが故に、迂闊に体を晒して進むのは危険だ。
そしてもう一つの危険も、また。
「ちょっと待ってくれ」
前方の安全を確認したエリカに告げて、俺はボムチェッカーを取り出すと、付属の取っ手を最大に伸ばす。
所謂自撮り棒に近い形をしたそれを最大展張すると、立ったままでも地面近くに本体を降ろして探査できるようになる。全てのトラップに対処するのは当然不可能だろうが、即席の地雷探知機として有効だろう。
「なら、警戒は任せて」
その使い方を一目で理解してくれたエリカがそう言って俺の後ろに立つ。
そのフォーメーションで有刺鉄線の唯一の切れ目から駐車場の外へ。もしこの先に人が籠城している場合、唯一の通路と思われるこの場所に地雷を設置するとは考えづらいが、もうこの道を使わないとなればその限りでもない。むしろ進路を限定したことで確実にトラップに誘導できると考えても不思議ではない。
「……」
幸い、駐車場を抜け、そこに隣接するかつての公園のような空き地の前を通り過ぎるまでボムチェッカーは沈黙し続け、そしてそれが故障ではない証拠に俺とエリカの四本の足は全て無事に土の地面を踏みしめて進む。
公園を挟んだ駐車場の向かい側に、先程から見えていた平屋建ての民家が建ち、道はその民家の裏手に回るように伸びている。
「右手に廃屋が一つ」
エリカが告げ、俺も一度そちらに目を向ける。
駐車場付近より一層背の高い雑草が生い茂っている原っぱの真ん中に、廃屋――というより朽ち残ったいくつかの建材が転がっているのが目に飛び込んできた。
柱と、壁の一部だけ。そのボロボロの廃屋も、そう遠くない未来には周囲の草むらに取り込まれて消えるのだろう。
そんな廃屋を右手にして、道は更に奥へと伸びていく。
と、その進行方向が土手のように一段高くなっているのが目に入った。
平屋建てから離れて奥へと真っすぐに伸びている細道。それと直角に交わる2m弱程度の土手。目に見える限り切れ間なく、この区画を横断するように端から端まで一直線に伸びているそれの先には、この辺りと同じ草むらと、その奥には二階建ての一軒家が一つ。そしてその奥にはその他の景色とは異なる無機質なコンクリートの壁が、天井までしっかりと塞いでいた。
恐らくあの民家がこの環境調整区画の端なのだろう。その進行方向から目の前の細道に意識を戻す。どうやら土手に向かって一直線に伸びた先は、土手の斜面も真っすぐによじ登る形になっているようだ。
そしてその土手に無事に辿り着いた時、エリカがその正体に気付いたようだった。
「これ、道路だったんだ……」
土手の頂上、区画を横切っているそれは、片側一車線の舗装道路だ。左手は元々サイストック市街から伸びていたのだろう、民家の後ろと同じコンクリートの壁によって強制的に行き止まりになる場所まで伸びている。
対して右手側は、恐らく元々そこまでだったのだろう、区画の端の少し手前で舗装部分が終わり、本来この道を利用していたはずのビルが、これまた一階部分の僅かな壁と柱だけ残して瓦礫の山と化していた。
それを見つけ、俺たちは一度斜面に伏せてその道の向こうを確認する。
ボロボロのトタン板で道路との境界を示した土地が道を挟んだ正面で、その一番奥が例の一軒家。そしてその間にあるのは、全て俺の腰位はありそうな草むらだ。
「「……」」
その草むらに、俺たちは二人で目を凝らす。
草むらの真ん中にはこれまでと同じような道が出来ているが、それ以外には道らしい道はなく、かと言って中に入り込めそうにないかと言えばそうではないという、非常に厄介な場所だ。
人が入り込めないような木々が鬱蒼としている密林ならば当然敵も入り込めないだろうが、草むらとなるとそうも言っていられない。
とはいえ、他に進めそうな場所もない。
正面の敷地以外はこれまた有刺鉄線で厳重に侵入を防ぐようになっているし、より深い茂みだらけで、あそこの中でトラップを探しつつ伏兵に気を配るなど非現実的だ。
つまるところ、進むべきではない。
だが、そうとばかりも言っていられないものを見つけた俺の相方が、その代物を視線で示した。
「見て」
その視線の先=目の前の道路を横断している、まだ新しいタイヤ痕。
細い二本のタイヤと、それのうちの一つと等間隔を維持して並走する二つのタイヤ。
自転車。それも補助輪付きの。
という事はつまり、まだ小さな子供がいるという事だ――それも、まだ乾ききっていない土によって出来た痕である=つい最近ここを通った。即ち、この辺りにまだ住んでいる可能性が高い。
「……話せる相手であることを祈ろう」
「そうだね……」
補助輪付きの自転車に乗っている子供が一人で三層まで入り込む?まあ不可能だろう。
となれば当然、そこには誰か大人がいる。
子供の自転車に補助輪をつけてやるような大人なら、少なくとも無警告で撃ってくることはないだろう――その何の根拠もない理論を信じて進むのは気が引けるが、しかし誰かいると分かってここで引き返すことも出来ない。
何しろ、後ろに下がっても一本道でもう一度あの工事現場=所属不明の武装集団が占拠している場所を通らなければならないのだ。増援の到着が確実ではない以上、今はここで外にでる方法を探すしかない。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




