若き冒険者11
「マガジンを替える!」
宣言しながら即座に実行。数秒とはいえその間の接近を防いでくれた相棒は、俺のそれが終わると同時に宣した。
「こちらも替える!」
役割交代。今度は彼女の数秒を俺が稼ぐ。
「CPよりアルファ、更に無人機部隊が接近中だ。後方の非常階段から脱出して駐車場入口に停車したバスまで退避せよ」
「アルファ了解」
マグチェンジを終えたエリカと一瞬の目配せ。分担はその一瞬で終わった。
即座に彼女が踵を返して俺の横をすり抜ける。
「!」
その間射撃を継続した俺の左肩に、ポンと彼女の手が触れる。それを合図にして俺も射撃を中断。
先程同様2m程度前を行くエリカの背中に向かって走る。
非常階段は廊下の一番奥で、本来ならいたずら防止か何かで非常時以外には開かないようになっているのだろう金網の扉はその状態になって久しいのだろう、上側の蝶番が外れて取れかけた状態のまま扉を閉ざしている。
「なら……ッ」
それを認めたエリカの手がハンドガード下に伸びるのは、俺の位置からでも分かる。
直後に銃声。
そして金属の耳障りな音。本来なら鍵を破壊するのに使うアンダーレイルのマスターキーは、一発で下側の蝶番を吹き飛ばしていた。
それを確認したタイミングで俺は振り返り、彼女が非常階段に踏み込むまでの一瞬を後方確認――実際には迎撃――に充てる。
「諦めろ」
同胞の残骸の山を踏み越えた最後の連中が廊下を疾走し、それに対して一発ずつ撃ち込んでいく。
駆け寄るのは三機。振り向く動作に合わせてライフルをほとんど90度左に倒し、銃のサイトではなく肉眼で捉えた一番近い右側の個体をまず打ち抜き、マズルジャンプを利用して真ん中の個体へ。それを撃ち抜いてすぐに残った一番左へ。
今度こそ完全に追手を始末した――先程登って来た階段を駆け上がって来る同じぐらいの規模の後続部隊以外は。
「よし」
そこで再度踵を返す。
規則的に、そして素早く繰り返されるエリカの足音を追って、俺も階段を駆け下りていく。
幸い、こちらにはまだ無人機部隊は到着しておらず、LD兵の姿も見えない。
「外に出るよ!」
「了解だ!」
先に一階まで駆け下りた相棒の声を聞きながら駐車場へ。
飛び出してすぐ、周囲を確認しつつ足を止めずに正面のバスへ。先程見下ろして実感していた、開けていて碌な遮蔽物もないキルゾーンにうってつけの場所はすぐにでも移動した方がよい。
「この裏!」
入口前に放置された路線バスの後ろに回り込んでようやく足を止める。
幸い、無人機部隊は俺たちを見失ったのか、追ってくる様子はない。
「……さて、どうする」
息を整えてから改めて相棒に尋ねる。
厄介な乱入のせいで棚上げしていた問題=あのライフル魔を追うべきか、追わざるべきか。
その質問の答えは、俺の代わりにエルマさんに対しての問いという形で返された。
「アルファ1よりCP。エリスはまだ市民ホールに?」
「おいマジで行く気か?」
無人機部隊は追跡を諦めた――のかもしれない。少なくとも今は追ってこない。
だがこれから向かおうとしている市民ホールは、お構いなしにこちらを撃ってくる捜索対象と、それを始末せんとするLD兵、そして恐らくそいつらが連れている無人兵器群と、今や化け物小屋状態だ。
「お前分かってんのか、こっちは二人で――」
そこで中断。CPからの応答がインカムに響く。
「アルファ、エリスが移動している。市民ホールを出て、旧市庁舎へ入った」
位置関係を頭に浮かべる。
市民ホールから旧市庁舎は直線で結べる。
旧市庁舎自体は二層にあるが、高さで言えば中三階とでも言うべき場所だ。
そしてその高さが故に、三階部分より上は一層に突き出す形となっている。
「CPよりアルファ、エリスは旧市庁舎四階の会議室跡にいる。市民ホールの時と同様に崩れかけた場所から下を見下ろせる場所だ。追跡したLD部隊はまだ気づいていない様子だ――」
ほんの一瞬、エリカの顔がほころんだ気がした。
「……」
俺は黙って新しい奴の籠城場所=背後のビル群の先にある旧市庁舎を見上げる。
少なくとも今なら、市民ホールに飛び込むよりは安全だろう。
そして次の指示で、俺の覚悟も決まった。
「――アルファはこれより旧市庁舎へ侵入し、エリスと接触。武装解除せよ」
仕事は決まった。命令に従うのは得意だ。
上の意思が決まった以上、俺がやるべきことはそう多くない。
「アルファ2よりCP。エリスが抵抗した場合は?」
「アルファ2、依頼人に確認が取れるまで無力化は許可できない」
と、そこでスマートフォンの方へ着信。
その意味を理解し、ボディカムに映らないように視線だけでメールをチェック。
From:エルマさん
Title:武装解除の手段は問わない
つまりこうだ――奴が生きてさえいればどんな状態でも構わない。
エリカの方を見る。同じものを受信したのだろう彼女の表情も、心なしか安堵しているように思える。
「了解。アルファ2アウト」
通信を終える。そう多くないやることが一つ片付いた。なら後は残りの一つにかかるまで。
「よし、行こう」
踵を返し、相方と同時にビル群を抜ける小道に向かって走り出す。
「……ありがとう。それとごめん」
「何が?」
小道を抜け、旧市庁舎がある、石垣のように十数m周囲より高く盛り上がった区画が正面に見える場所に到着した時、唐突にエリカがそう俺に言った。
「無茶しようとしている。それを止めてくれた」
自覚はあったようだ。或いは時間を置いて冷静になったのか。
「まあ……、俺も死にたくはないしな」
やり取りをしながら、俺たちの目も足も、警戒と移動は同じペースで続行する。
片側二車線の道路を横断して旧市庁舎の足元へ。あとはもう少しだ。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




