若き冒険者10
目を合わせる俺とエリカ。
探す手間が省けた――いい所に目を向ければ。
大人しく話を聞いてくれそうにない――実際の所に目を向ければ。
任務と命、天秤にかけた時にどちらに傾くのか。生憎、色々変わった俺の中でも、死ぬのが怖いという点は変わっていない。
「――それと、今の銃撃は警備部隊にも見られている。巡回中の部隊が複数市民ホールに向かっている。ん……待て――」
余計に大きく天秤が傾く。今あそこに近づくのは危険すぎる。
だが、そうではない人間も世の中にはいるようだ――例えば、その報告を受けてハッとした表情でこの建物の影になっている市民ホールの方向を見た俺の相方とか。
「おい正気か?」
「でも、今を逃がせば手遅れになるかもしれない」
「落ち着けよ。俺たちが手遅れになる」
彼女が更に何かを続けようとした時、すぐ近くのローター音がそれを遮った。
「「!!」」
反射的に振り向いた先=アサルトライフルを吊るしたクアッドコプター。
「クソッ!」
咄嗟に身を屈め、同時に横に飛んだエリカが発砲する。
交錯する数発の銃声。硬質な何かが砕ける音。
「タンゴダウン」
彼女の宣言が一瞬の交錯に勝利したことを告げる。
「アルファ!そちらにもだ!無人兵器群が後を追うようにして迫っている!」
「ッ!?」
身を隠していたコンクリート製の壁から外を覗き、即座に銃口を真下に。
もう一機のクアッドコプターが上昇してくるのを、その四基のローターの真ん中を狙って撃ち下ろすことで迎撃。
今度はこちらに銃口を向ける時間すら与えずに撃墜――だが、気が休まる時間は一瞬もない。
「コンタクト!」
エリカが叫び、同時に発砲する。
反射的に振り向いた俺も、即座にそれに続いた。
今走り抜けてきた廊下、その大人がすれ違える幅全てを埋め尽くすニュートロフィルの群れが、武装した不審者二人を始末せんと突っ込んでくるところだった。
「クソッタレ!」
毒づきながら、無人兵器の津波に銃を向けて即座に引き金を引く。
群れの先頭を行くニュートロフィルの上部が爆ぜてから慣性で前進し、やがてそれを無数の後続が踏み越えて接近する。
ロボット掃除機に四本脚がついただけのような間抜けな見た目だが、あれに接近を許せばどうなるのかは、こちらの世界に来て最初に見た通りだ。
「数が多い!」
エリカが叫ぶ。
彼女は俺の横でエアコンの室外機に身を隠しながら応戦しているが、二人分の火力ではとてもではないが迎撃が足りない。
「……ッ!」
攻め寄せる敵に引き金を引き続ける。
単射で一発ずつ正確に――と言っても気にするのは上下のズレだけだ。これだけの密度ならば、廊下の範囲内に照準されていればあとはどこに撃っても当たる。
――そしてその状況から全く改善されない内に、連中が連絡橋を渡り切ろうとしている。
「なら……ッ!」
一瞬射撃を中断。
ライフルから離した手が腰へ。
「グレネードを使う!」
宣言し、その通りのものをグレネードポーチから引き抜く。
ピンが足元に落ち、それと同時にエリカも射撃を中断。室外機の陰に完全に身を隠す。
「フラグアウト!」
一瞬だけ間を開けて叫び、連絡橋の上に放る。
緩い放物線。投擲と同時にその場に伏せ。
「ッ!!」
軽い炸裂音を聞き、即座に顔を上げて射撃再開。爆発に巻き込まれなかった先頭集団は、もうその胴体正面に着けられたカメラのレンズすら視認できる距離に迫っていた。
「クソがっ!」
即座にフルオートへ。マガジン内の弾を全て吐き出す。
先頭を行く連中の、無機質なカメラのレンズが砕けて、非装甲のボディを貫通した5.56mm×45弾が飛び出していく。
先頭集団は沈黙。だが、その後ろから停止した仲間を踏み越え、或いは壁走り=90度傾斜してフェンスを走行する後続が迫っている。
「くっ――」
マガジンは空。リロードの時間はない。
咄嗟に腕をサイホルスターへ。伏せた姿勢から間に合うかは分からない。だが、やらなければ死だ。
「ッ!!」
だが、まさに飛び掛からんとした壁に張り付いたニュートロフィルたちが落ちる。
それを認識するまでにかかった僅かな時間のうちに、先頭集団の残骸を踏み越えようとした別の個体もまた、親亀子亀状態でスクラップに変わった。
「よし」
「ナイスキル」
命の恩人=ハンドガンでそれらを始末したエリカの安堵に応じて、俺は起き上がって膝射姿勢になりがら自らのハンドガンを抜いた。
グレネードで確実に数を減らしたのだろう、少し後続の到達までに生まれた時間は、俺がハンドガンを抜くのに必要な時間と、エリカがライフルに再び持ち替えるのにちょうどぐらいだった。
「「ッ!!」」
更に距離を詰めるそれらに対し、再度射撃。
流石に連中も二台重なった残骸を踏み越えるのにはてこずるようで、そのスクラップの山の前で一度足を止める。
当然、それを見逃す手はない。
足を止めたそいつらに、俺たちは身長=高さの利点を活かして上から撃ち下ろし、足を止めたニュートロフィルをスクラップ山の裾野に変えていく。
そうして生まれた裾野は当然ながら更なる後続の足を止め、そうすることでそいつらが次の裾野になってくれる。
じわりじわりと、キルゾーンが俺たちから離れて行く。その距離に比例して、俺の中の余裕も生まれていく――もうほとんど弾の残っていないハンドガンの射撃を中断してライフルのリロードを行うぐらいには。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




