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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
若き冒険者
32/259

若き冒険者8

「よし……ん?」

 こじ開けたそれを手前に引く。扉の縁に固まったセメントのような塊=寿命の過ぎたジェルロック。

 施錠だけなら鍵を持っていれば外からも可能だが、こいつを中に仕込めるという事が何を意味するのか、開いた扉から侵入するべく控えていたエリカがプライマリーウェポンをスリングに任せ、セカンダリー=ハンドガンに切り替える。


「よし……侵入する」

 先行した彼女に俺も倣う。ショートバレルのアサルトライフルを振り回せない程ではないだろうが、それでも中は狭い。より確実性を求めればハンドガンに分がある。

「前方にバリケード」

「視認した」

 息を潜めたエリカの声。

 扉の向こうは奥に続く廊下。

 恐らくリビングだったのだろうその一番奥の部屋の入口には、室内にあったものと思われるテーブルが天板を廊下側に向けて倒された形で置かれ、即席のバリケードを形成している。

 その向こう側に俺が警戒を向け続け、それを信じてエリカが右手の扉に手をかける。


「寝室クリア」

 廊下から素早くクリアリング。即座に向き直り、反対側に設けられた扉も開く。

「洗面所クリア。風呂とトイレも」

 風呂とトイレを一緒にしているタイプのユニットバス。使われなくなって久しいのだろうそこも確認。

 その更に奥は例のバリケードだ。

「「……」」

 といって、抵抗はない。

「……アルファ1よりCP」

 その向こうに見えたものを確かめてテーブルを渡る。

「少年の一人を発見しました」

 リビングの真ん中、本来なら存在したのだろう、そこに通じるサッシごと崩落してなくなっているベランダに対して左側を向けるように配置されたソファの上に、一人の少年が体を預けるようにして横たわっている。

 開かれた目はこちらに向けられていて、しかし光も無ければ焦点も合っていない。

「こちらでも確認した。照合せよ」

 ボディカムの映像で確認しているのだろうエルマさんの声。

 努めて平静を装っているが、ショックを受けているのはなんとなく分かる。


 念のため周囲をクリアリング――二間続きのリビング。左手奥の部屋もサッシとその周囲の床が崩落して下の階が見える。

 その続きをエリカに任せてから既に息のない少年の横に預かった写真を出して比較する。

 中肉中背の体型。やや丸顔ですぼまった目――手元と目の前の少年は、多くの点で一致する。


「アルファ2よりCP」

「こちらCP」

「写真と照合。ジョージ・アマダである可能性が高い――」

 伝えてから、彼の横に落ちている小さな手帳を拾い上げる。

 乾いた血がこびりついた聖オリビエリ学園の生徒手帳。中に持ち主の写真入り身分証明書=網膜照合を使う必要もない。ジョージ・アマダと断定する。

「間違いない。ジョージ・アマダだ」

 その哀れな家出少年の名を告げて、改めて死体を検分する。


 トレンチコートにシュタールヘルム。すぐ横でソファの背もたれに銃身を預けているのは、恐らく彼が持ち込んだのだろうStg44とその足元に転がるP08拳銃――笑えてくるほどの骨董趣味。

 そしてそれらとソファ、そしてその周りの絨毯を真っ赤に染めているのは、彼から失われた血液だった。

 辺り一面に広がったその血の海の源流は彼の右足太もも。恐らく自分で止血を試みたのだろう、血でまだら模様になったターニケットが転がっており、それが上手く使えなかったことを示すように、足には下手糞にまかれた普通の包帯が一つ。赤黒く変色したまま最早意味のない止血を行っていた。

 と言って、彼が特別不器用だった訳ではあるまい。ターニケットを正確に使用するのにはそれなりに知識がいるし、血液の多くを失った状態で自分の足に巻き付けるのは至難の業だったはずだ。


 多分だが、彼は何者かの攻撃を受けたのだろう。

 受傷し、なんとか止血しようとして、或いは止血しながらこのバリケードを設置し、玄関を施錠してジェルロックを施した――正確な状況は鑑識官でもなければ分からないだろうが、大方そんなところと思われた。


 その結論に至ったところで、エリカがこちらに戻って来る。

「これ、フルオート付きだ……」

 取り上げたStg44を見て最初に彼女が発したのはその言葉だった。

 この国では護身用、狩猟用、スポーツ用等の理由で民間人の銃器の所持も認められているが、当然そこにも規制は存在する。連射機能を有する銃の個人での所有はその規制の対象だ。

 俺たちが持っているのはあくまで諸々の届け出と審査を経た法人の備品であるからであって、個人、それも一介の高校生が所持していれば間違いなく違法な代物だ。

「どこでこんなものを……」

 数発発射した形跡があるところを見ると、恐らく彼がこの傷を負う原因となった戦闘の際に使用したのだろう。


 不意に社長の声がインカムに響いた。

「CPよりオールアルファ、聞こえるか?」

「こちらアルファ1。良好です」

「アルファ2も良好です」

 応答に一瞬の間が開く。

 それから漏れてくる、何かを思案している最中の声。

「あー……、アマダ少年の死亡の件は了解した。死体については回収班を派遣する。引き続き残る二人の捜索に当たれアウト」

「アルファ1了解」

「アルファ2了解」

 通信を終えるのと、エリカが手に取った生徒手帳に殴り書きされた遺書というか遺言書というかを見つけたのはほぼ同時だった。

「何か書いてある……」

 そう言いながら目を落とす彼女に俺も横から倣う。


 パパ、ママ。ごめんなさい。

 こんな所来るべきじゃなかった。

 ちょっとした遊びのつもりだった。サバイバルゲームみたいなものだと思っていた。

 こっちに来てすぐミハイルとはぐれた。

 襲われて、俺とエリスで反撃した。その後エリスと別れた。

 あの野郎!あいつは俺を撃った。ちょっと仲違い――


 そこで文章は途切れた。

 厄介なことに、少年たちはバラバラになったようだ。

 そしてこの様子だと、他の二人の生存もあまり期待は出来そうにない。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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