若き冒険者7
「待って……、まずい向こうから来た」
そんな胸糞悪い見物を中断させたのは、エリカの緊迫した声と、彼女の視線の先=交差点を挟んだ反対側の道路をやって来る別のLD兵の一団。
これも幸いにこちらにはまだ気づいた様子はないが、それでもここにいれば見つかるのは時間の問題だ。
「こっち」
エリカが先に動く。今体を預けているのとは反対側=今いる路地の左手側の、小さなガレージのシャッターがこじ開けられている二階建ての民家。
彼女に続いてそのシャッターをくぐる。それからそのガレージ内の扉を開けて家の中へ。ガレージにいればとりあえず身を隠すことは出来たが、ブリーチングラムでドアをこじ開けている奴ら相手にそれだけではいずれ見つかる。
「CP、室内侵入に成功しました」
「ボディカムで確認している。……隠れろ。その家の裏口にLD兵が来ている」
咄嗟の判断:目の前の階段を上へ。
ガレージから入ってすぐに裏口の扉が見えた事と、ここから見る限り一階の部屋がキッチンと風呂の他はリビングしか見えないことも影響した。
階段を登り切った時に聞こえてきたドアの破れる鈍い音に、俺たちは思わず息を止めた。
「「……」」
階段の両サイドに控えて固唾をのむ。それを下り切った先の床がフラッシュライトで照らされているのが分かる。
直後にハンドシグナル――と言うほどでもないジェスチャーで互いに合図。エリカの背後にある部屋の窓が開いていて、手の届きそうな隣の家のバルコニーが丸見え。
即座に移動開始。見えていたのと実態とにギャップが無かったことを幸いに、俺たちは窓からバルコニーへ、そして隣家へと移っていく。
こちらの家は閉め切っているが、幸いガラス製のそれは外からでも鍵の位置がわかるタイプだ。
「少し待てよ……」
エリカに後方=先程までいた部屋を警戒してもらい、俺は荷物からサージカルテープを取り出すと、それをサッシの鍵の周囲を三角形に囲むように貼り付ける。
それからハンドガンのグリップで一撃。ほとんど音を立てずに腕のサイズに開いた穴から指を突っ込む。
「凄いね。……やったことあるの?」
「知っていただけだ……よし開いた」
カラカラと開いたサッシ。滑り込むように中へ。
隣と同じような間取りのそこをクリアリングしてから一階へ。幸い、こちらにはまだ敵は入り込んでいなかった。
「CPよりアルファ、そこの裏口から出れば最初のベルウッド・ハイツはすぐ近くだ。今なら周囲に敵はいないオーバー」
「アルファ1了解アウト」
念のため扉から裏手の路地を確認する。見えるのは同じような家と、その向こうにそびえ立つ、一層の基底部分ギリギリまで伸びている集合住宅=ベルウッド・ハイツ。
「あれだね」
「ああ」
モタモタしていたらここにも警備部隊が来ないとも限らない。路地に出ると、俺たちは見えた目標目指して再び路地を進み始めた。
第一のベルウッド・ハイツは、その下から見る限り日本のマンションと大差ない構造だ。
エントランスは厳重に封鎖されてしまっているが、そのすぐ近くにある駐車場側の通用口はその限りではない。
勿論扉は閉まっている。だが、単純なものだ。
「アルファ2。お願い」
その扉の構造を確認したエリカが俺にバトンタッチ。
「了解」
答えた俺=何をするべきかは分かっている。
手の中には銃の代わりにバール。それを単純なキー一個で開けるその扉に突っ込んで抉ること数秒。
「……よし」
「……やっぱやってたでしょ」
まあ、我ながら手慣れているのは事実だが、頭に埋め込まれた知識のお陰だ。
とにかくそれによって侵入した内部は、当たり前だが人の絶えて久しい、全体的に埃臭い廃墟だった。
「アルファ1よりCP。一軒目のベルウッド・ハイツ侵入に成功。これより508号室に向かいますオーバー」
「CP了解。その建物の裏手は一層部分が存在しない。通行時は露見しないよう注意せよ」
今いる廊下は表側に当たるのだろう、見上げれば空の代わりに一層の基底部分しか見えないが、しかし同時にその基底部分がしっかりと見える程に明るいのも事実だ。
「了解。アルファ1アウト」
答えてから廊下を進む。
幸い今や住民の存在せず、誰も近寄ることのないこのマンションでは、住民やその代わりに隠れている襲撃者と鉢合わせる危険性は低い。
とはいえ、警戒するに越したことはない。全ての部屋をクリアリングすることは当然不可能として、廊下の安全は確保しなければ。
「通路クリア」
加えて、螺旋階段のように何度も折り返す階段もまた同様だ。更に二階より上となれば廊下が外から丸見えという危険も追加される。警戒しつつ、同時に同じ場所に留まらない――気の休まるタイミングなど一度もない。
「アルファ1よりCP。508号室前に到着しました。内側から施錠されています」
だから、今いる棟の一番端のその部屋に辿り着いた時には一瞬だけだが安心が生まれていた。
このベルウッド・ハイツ。三階より上では西側にある棟と繋がっているらしく、508号室はその渡り廊下というか連絡橋の手前に位置する部屋だ。
「CP了解。可能ならこじ開けて侵入しろ。トラップに警戒せよオーバー」
「アルファ了解アウト」
通信を終えて、俺に目を向けるエリカ。
一瞬での結論:もう一度バールの出番。
彼女の持つ“マスターキー”で開錠するのも手だが、あれは音が大きい。強力だが使いどころは限られてくる。
扉とその周囲にトラップの類が無い事を目視で確かめ、念のためボムチェッカーを当てる。
レジのバーコードリーダーみたいな見た目のそれは、遮蔽物を透過して爆発物を検知できる優れモノだ。
「爆発物反応せず……と」
危険のない事を確認したら、いよいよこじ開けだ。
バールを扉に差し込み、何度かこじる。見た目は普通のマンションの扉だが、長年放置されて劣化していたのか、或いは単なる安普請か、複数回の試行で鍵が無力化された。
(つづく)
旧年中はお世話になりました。今年もよろしくお願いします。
今日はここまで
続きは明日に




