初出勤6
LD残党、LD兵。警備部隊――呼び方は様々だが、連中の正式名称はNMA-02Iという味気ない番号だ。
No Mans Army計画――冷戦中、最悪の事態が発生した場合に人間の下士官兵=軍隊の屋台骨が不足することを想定して構想された、無人兵器による軍隊。
その中核として当時飛躍的な発展を遂げた人型メカの技術を投入して造られたのが彼らNMA-02Iだ。
複雑系スタビライザーと呼ばれる機器を、軽量合金骨格とナノマシン還流型人工筋肉で出来た全身に装備することで、生身の人間と変わらない複雑な姿勢制御や運動をも可能としたこの機械兵たちは、各軍や警察を始めとした様々な組織に採用されたが、特に積極的だったのはLDだった。
彼等の場合、兵力の不足というよりも組織の腐敗による風紀の乱れへの対策だった訳だが、実際に腐敗を正される必要があったのは機械兵を導入した上層部でも変わらなかったという事は言うまでもない。
とにかく、あの連中には一切の泣き落としも袖の下も効果がない。発見され、敵と判断された場合の選択肢は二つに一つだ。大人しく殺されるか、生き残るためのあらゆる手を尽くすか。
そいつらをやり過ごして進んだ道は、ほどなくして開けた場所に出た。
恐らくバスロータリーだったのだろう場所には、中央の植え込みをぐるりと囲むように幅員の大きい道路が一周していて、バスロータリーと判断する根拠となった錆びだらけのバスの残骸が何台かそこの外周に並んでいた。
そしてそのロータリーを覆うように広がっているペデストリアンデッキ。ロータリーの反対側=こちら側からエスカレーターとエレベーターによって登れるようになっているそこは、一番奥に控える市営環状モノレールの駅まで続いていた。
俺たちの進路は、その駅のすぐ近くだ。
「アルファ1よりCP、駅前のバスロータリーに到着。これよりペデストリアンデッキを通ってC2バンカーにアクセスしますオーバー」
「CP了解。現在周囲に敵影なし」
俺のインカムにも届いているそれを聞いて、俺たちは顔を一瞬見合わせる。
「よし、行こう」
「了解」
ここでポイントマンを交代。俺が先頭に立って先へ。
念のためロータリー周辺を確認するが、見える範囲に敵はいない。
今やただの階段と化したすぐ近くのエスカレーターを使って上へ。最後の数段はそのまま登らずにその場に伏せ、視界を確保する最低限だけ頭を出して前方を確認。
「……異常なし」
それから起き上がって残りを登り切ると、その場に片膝をつき待機。同時にハンドシグナルを後方へ=異常なし。
「ッ」
待機と言っても数秒もかからず肩にポンと手が置かれる。
それを受けてから再度先行。大きなバスロータリーを覆うだけあってかなりの広さを誇るペデストリアンデッキは、中央に今や雑草の繁殖場と化した植込みが奥へと一列に並んでいるのと、都市警備AI反乱時に設置されたのだろう、いくつか点在する土嚢を積み上げたりコンテナを置いただけの簡易的バリケード以外には何も遮蔽物がない。
その上周囲に立ち並んだビルに囲まれており、本来なら絶対に通るべきではない場所だ。
だが、残念なことにすぐ下のバスロータリーは未だにバリケードで封鎖されている上に、無理矢理に入ったものが未だに生き残っているブービートラップで半分になってしまったという話も聞いている。
つまりこのルートは危険だが、それでも突然足元のタイルやすぐ横の電柱が爆発したりしないだけ比較的安全なルートなのだ。
そのルートを俺たちは進む。俺が先行し、その間エリカが周囲を警戒。進んだ先に危険が無ければハンドシグナルで彼女を呼び、彼女の到着と同時に更に先へ――この尺取虫のような動きを繰り返して、俺たちはモノレールの改札が見え始める辺りまで移動していった。
「ここの左」
「了解」
その改札が見える場所でペデストリアンデッキは大きく左右に伸びていた。
駅ビルと線路の間に出来た小さな路地。元々は駅ビル二階の店舗が並んでいたのだろうシャッター通りの手前の壁の前へ移動する。
「アルファ1よりCP。B17バンカー前に到着。これより“ダイヤ”に接触します」
「CP了解。中の固定電話の番号を送る。それにかけろ」
ダイヤ=要救助者を表す符丁。
通信終了と同時にエリカが俺の方を見る。
「中と連絡する。周辺の警戒をお願い」
「了解だ」
言われた通り周辺――主に路地の奥と、ここまで通って来たペデストリアンデッキ。それに反対側の路地に監視の目を向ける。二方向を見るのは難しいが、エルマさんの目になっているドローンがペデストリアンデッキの方に飛ぶのが見えた。
「こちらモーラー・アルファ社です。……サニー」
すぐ後ろでエリカの声。ブリーフィングにあった合言葉から間を置かず、シャッター通りの端にあった支柱と思われていたスペースが開いた。
「モーラー・アルファ社です。皆さんの救出に来ました」
外部からの露見を避けるため、何も知らなければ素通りしてしまうような外観の扉の奥には、うなぎの寝床のような細長いスペース。
左手の壁側には簡易ベッドが並び、反対側には衛星電話と、食糧や医薬品を納めている棚。
一番奥が扉で仕切られているが、そこがどういう場所なのかは前に積まれた簡易トイレが物語っている。
「全員無事ですか?」
エリカの問いかけに、その狭い避難スペースに詰め込まれていた三人が心の底からの安堵の表情を浮かべていた。
「なんとか大丈夫だ。全員怪我もない」
その回答にこちらも一安心だった。
「アルファ1よりCP。全ダイヤを回収しました。健康状態に問題はなし」
報告するエリカの声にも安堵が見える。
後は彼等を連れて来た道を戻るだけ――と、まるでそのタイミングを見越していたような動きをCPの返答が伝えた。
「CPよりアルファ、まだ距離はあるがそちらの西側、線路沿いに敵部隊が接近している。それとオレンジヒル方面からもガードメカを中心とした部隊が接近中。すぐにその場を離れろオーバー」
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




