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初出勤7

 反射的に西側=線路沿いに続くシャッター通りに銃を向けつつ、頭の中に周辺オレンジヒルまでのルートを思い浮かべる。

「何か……」

 要救助者たちも、俺たちが何かを聞いている事には気付いたのだろう。

 そんな彼らに隠し立てしても仕方がない――エリカはそう判断したようだ。

「警備部隊がこちらに向かってきています。急いで脱出しましょう」

 彼らの表情から安堵が消えた。

 代わって現れた表情は、恐らくそれまでこのバンカーに籠っていた時にしていたのだろう、不安を形にしたようなものだった。


「大丈夫です」

 だから、そう言って笑顔を向けるエリカの存在が、彼女より一回り以上年上のはずの彼らを勇気づけたことは、その不安の表情がわずかばかり和らいだことでなんとなく分かった。

「必ず皆さんを無事に連れて行きます」

 そうして要救助者三人を勇気づけ、同時に着信したインカムに意識を割く。

「CPよりアルファ、西側から敵部隊が接近中。脱出ポイントを変更する。駅前まで戻り、反対側の通路に入れ。線路沿いに進んで『RDマート』の前からハーストで第一層ルビア交差点に戻れ。そこで回収するオーバー」

 地図が頭の中に浮かぶ。目標とするRDマートまではほぼ一直線で、距離は精々300m程度だ。


「だってさ、聞こえた?」

「ああ。問題ない」

 敵が来るという西側に膝射姿勢をとりながら相方の声に応える。

 幸いにしてまだ姿は見えないが、まあそれも時間の問題だろう。あまりここでのんびりも出来ない。

「アルファ了解。RDマートの前から第一層ルビア交差点に戻る。アウト」

 返答からすぐの指示。

「これから安全な場所に移動します。一列になって、離れずについてきてください。それと、私の前に出ないようにしてください。アルファ2は殿を」

「了解だ」

 目線を西側から離さずに回答。すぐさま後ろで人の動く音。


「よし、行きます」

 要救助者の三人目が背中を通り過ぎたところで俺も監視を終了し踵を返す――と、同時にバンカーの扉を閉める。次があるかは分からないが、せっかくまだ見つかっていないバンカーなのだ。みすみす無駄にする必要はない。

 それから五人で一列。ロープのない電車ごっこのような形で移動する。

 先頭にはアルファ1=エリカが立ち、その後ろに不安げにきょろきょろしながら続く要救助者三人組。そこから少しだけ距離をとって列全体を見ながら後を追う俺。時折後方を確認して、追手のいないことを確かめる。

 駅前に出る直前にインカムに声が入る。

「CPよりアルファ、ペデストリアンデッキにはまだ敵はいないが、駅に向かって敵部隊が集結中だ。速やかに脱出せよオーバー」

「アルファ1了解。……どこかで見られた?」

 最後の疑問だけは、インカムを通して俺とエルマさんだけに聞こえる声だった――要救助者を無駄に不安にする必要はない。

「アルファ1、それは分からないが可能性は考えた方がいい。だがとにかく今は無事に逃げ切れ」

「了解。アルファアウト」

 通信の内容は隠して、エリカは一瞬だけ三人の方へ目を向けた。

「駅前を通過して反対側の路地に入ります。頭を低くしてついてきて」

 それからすぐに、見本を見せるように彼女が先行。

 その後に続くように体を曲げて続く要救助者三人組と、それを追う俺。


 渡り切った先もC2バンカーのあった方と同じような路地が伸びていて、その奥に見えるRGマートの看板はすぐに見つかった。

 かつて存在し、住民のライフラインだったのだろうスーパーマーケットは、今や周囲の廃墟に取り込まれて、朽ち果てた錆びだらけの看板だけがその存在を伝えていた。

 その店先に到着するや、エリカが線路の方へと足を向ける。

 元々駐輪場か何かだったのだろうそのスペースからは、この第二層特有の、第一層の隙間から差し込む太陽光が光のカーテンのように差し込んでいた。

 全体的に薄暗い第二層において、それは三人組に希望の光に思えたのだろう。誰ともなく安堵のため息を漏らすのが僅かに聞こえてきた。


「アルファ1よりCP、RDマート前に到着、これより第一層に移動しますオーバー」

「了解アルファ1、こちらも間もなく到着する……待て――」

 一瞬の沈黙。

 第六感:よからぬ知らせの前触れ。

 それは決して俺の考え過ぎではない。エリカの表情にも緊張が走っていた。

「そちらに敵部隊が接近中。ペデストリアンデッキを登って駅に向かっている。急げ」

 予感的中。一瞬目を合わせる俺とエリカ。

 役割分担は即座に決定した。


「ハースト準備よし!」

 彼女が発する。

 垂直に射出されたワイヤーが第一層の支柱にしっかりと固縛される。この射出機能と自動固縛はハーストの最大の利点と言っていいだろう。

「上の安全を確認してハーストを渡します。一人ずつ登って来てください」

 それだけ言うと、彼女は慣れた動きで地面を蹴った。

 同時に俺はすぐそこまで敵が来ているという駅方向に振り返る。恐らく背後では彼女が上に吸い上げられていくように天に昇っている。


「……ッ!」

 咄嗟に目についた、第一層を支える鉄筋コンクリート製の柱と、何に使ったのか分からないドラム缶を盾に取る形へ。柱はともかく、空のドラム缶は敵の銃弾に対しては気休め程度にしかならないだろうが、それでもないよりはましだ。

「あの……」

 三人の一人が不安そうに俺を呼び、俺は振り返らずに答える。

「追手が近づいています。脱出までの時間を稼ぎます」

 それだけ告げ、ドットサイト越しに世界を見る。

 NMA-08ニュートロフィル。最初の日に遭遇した殺人マシンのLD制式採用モデルが群れ成してこの通りに入ってくるのを見たのは、それからすぐの事だった。


 そしてこちらが奴らを見つけるのと同時に向こうもこちらを見つけたのだろうという事は、それまでの巡航速度とでも言うべき動きから、一斉に加速してこちらに突っ込んでくるその動作で理解した。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に


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