トライアル5
「なら……」
もうゆっくりしている時間はない。即座にその部屋に飛び込みつつ残された死角二つを即座に確認。
「!」
右側の角から飛び出した同じ目出し帽とAKのターゲットに一発。入口から見て左側=今背を向けている側に次への通路がある。ターゲットダウンを確認したらすぐにそちらへ振り返る。当然、その廊下の正面にはここまで一歩も入っていない。
「室内クリア。次に進め」
指示に従って動き出した瞬間、廊下の突き当りにターゲット。
これを即座に撃って一歩進んだ瞬間、入口の左側から目の前に飛び出してくる、ナイフを持った目出し帽のターゲット。
「ッ!!」
反射的に蹴り飛ばし、反動で飛び下がりつつ一発。
白兵戦を挑もうとしたそいつを黙らせて、二人ですれ違えるギリギリの広さの廊下へ。
左右の壁に向かい合った扉が一つずつ――間違いなく何かある。
「……ッ」
覚悟を決めて右側の側面に立ち、施錠されていないのを確認して後ろ蹴りで蹴り開ける。
蹴った足をすぐに引っ込め、代わりに上半身を傾けて銃口と最低限の露出だけで室内を確認。細長い部屋の左右に二段ベッドが並んでいるだけの簡素な部屋。敵影無し。
「よし」
すぐに反対側を同様に蹴り開け、今度は堂々と待っていたターゲットを撃ち抜く。
「ッ!」
と、同時に背後で音。振り向いた先にベッドから飛び出して来たターゲット。
「クソッ!!」
恐らく実戦なら撃たれているのは俺だっただろう。その苦い事実を噛み潰しながらそのターゲットに鉛玉を撃ち込む。
「よし、次」
廊下の突き当りから次の部屋へ。
「ッ!!」
今度は何も小細工無し。部屋に入る直前に一斉に立ち上がるターゲット。
横にスライドするそれらを一個ずつ処理していく。
と、その直後に立ち上がる二枚のターゲット=ホールドアップした丸腰の男と、その頭に拳銃を突き付ける目出し帽。
「ッ!!」
ほんの一瞬だが動きが止まり、その隙をつくようにもう一枚、こちらに銃を向けているターゲットが立ち上がる。
「クソッ!」
まずこちらを狙う奴を優先して排除し、即座に向きを変えて人質をとったターゲットに一発。
「よし、次、階段を登れ」
何とか人質に当てずに済んだことに安堵する時間もなく、指示通りに部屋の隅にある階段を駆け上がり、その最後の一段の前に飛び出して来たターゲットを銃のグリップエンドで殴りつける。ボクシングのストレートの動きそのままに腕を伸ばして顔面を殴り抜くと、流石に倒した判定になるのかターゲットが折れる。
即座に銃を持ち直して廊下の奥から突っこんでくる次のターゲットを撃ち、それから正面の最後の扉の横へ。
「中に敵が六名。即座に無力化しろ」
指示はそれだけ。つまり方法は一任。
左手が音を立てないようにそっとドアを押し開ける。
僅かに出来た隙間。その間を縫うように放り込んだフラググレネード。
「ッ!!」
扉を閉めて、コンクリート製の壁に身を隠す。
向こうから炸裂音。今度は蹴り破って突入。
「そこっ!」
六枚あったターゲット。部屋の隅に残った二枚を撃ち抜くと改めてラディコスさんの声がした。
「状況終了。戻ってこい」
これでここの攻略は終わり。
キルハウスを出ると、その前に設置されていたモニターの前にラディコスさんと――
「あっ!お疲れ様!」
そう言ってタオルを差し出してくれたコンビを組むことになる相手が待っていた。
今日は制服姿ではなく、恐らく普段着なのだろう、一目で学校指定と分かるデザインのジャージ姿だ。
「どうも」
有難く受け取る。全身をいじっている訳でもないため、汗はしっかり出ていたが、涼しく過ごしやすい気温もあってか全身生身だった頃と汗のかきかたが控えめだ。だがそれでも冷却効果は十分だと、ナノメディックが伝えている。
「さて、試験結果だが……」
ラディコスさんがこれまでの俺の動きが映るモニターと、いつの間にかつけられていた記録用紙を見ながら発表する。
「まず、格闘に関しては十分だ」
ハンターさんの太鼓判は決してリップサービスではなかったようだ。
「武装走と障害走も、まあまずまずと言ったところだろう――」
それからちらりと俺を見て、リピート再生されている画面にその視線を移す。
レンジの中で次々に現れる的を追いかけている俺、キルハウスの中で実戦なら背中を撃たれている俺。
「……そうだな」
そしてその結果をどう伝えるべきか、一瞬頭の中で編集作業が入ったのだろうラディコスさん。
「まあ、これなら及第点と言ったところだろう」
どうやら合格らしい。
その一言でようやく胸を撫でおろしたのは、俺だけではなかった。
「おめでとうございます」
そう言ってくれたのは俺よりも分かりやすく息をついたパートナー。もっと正確に言えば、上司からパートナーになることを許可された相手。
そしてその少女は、昨日と同じ屈託のない笑顔を向けてくれた。
「改めて、これからよろしくね!パートナー!」
笑顔と共に差し出された手を握り返す。
昨日と同じ、温かくて柔らかなそれ。
「ああ、よろしく」
コンビ結成。晴れてこちらで仕事が出来るようになった瞬間だった。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




