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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
トライアル
13/259

トライアル4

「いやはや、大したものだ」

 改めて称賛を送ってくれたのはハンターさんだった。

「本当は最後の奴は予定になかったがね、まあアドリブって訳だ。しかし、それでもあんたは凌いだ」

 本当に評価されるべきはあの闇医者だろうが、まあ言ったところで意味はない。今は有難く受け取っておこう。


「さて、それじゃ続きだ。こっちに来てくれ」

 そのハンターさんに連れられてトラックの内側へ。アスレチック……と呼ぶのが正確かどうかは分からないが、他に表現のしようがないコースの前に連れ出された。

「次は障害走だ。このコースを可能な限り早く駆け抜けて――」

 ハンターさんが指でコースで求められる大体の動きを――つまり、跳んだり跳ねたり這ったり登ったりを――再現して奥へと視線を誘導する。


「一番奥のレンジに入って射撃のテストだ。銃はお前さんの奴を使う」

 そう言って先程下ろした自分の銃を渡される。マガジンに赤いテープが巻かれているのに気が付くと、彼の説明がすぐに続いた。

「そいつには実弾が装填されている。質問は」

 念のため確認。安全装置はかかっていて、薬室も空。まかり間違っても暴発する危険はない。

「……ないな。よし、なら始めようか。用意……」

 合図と共に走り出す。距離にすれば先程の武装走より遥かに短いだろうが、やることはあまりに多彩だ。

 ハードルを飛び越え、壁に取り付いて頂上を掴んでよじ登り、それを降りた先で平均台を駆け抜ける。

 体はしっかりと走れている。初めてのはずなのにどうやるかを知っている。

 ――もしかしたら、この感覚を味あわせることが本当の目的なのかもしれない。即ち、記憶と実際の体のすり合わせを済ませておくことが。


「……」

 まあ、そんな事を考えるのは後回しだ。

 壁を飛び降りたら地面に突き刺さった高さの違う丸太の上を飛び移って進み、それから鉄条網の下を匍匐前進で進む。当然、経験したこともないこの動きを体はしっかりとスムーズにこなしている。

 雲梯にぶら下がって進み、ロープで急傾斜を駆け上がる。機械化した体も疲労は感じるらしい。腕の感覚がなくなりつつあり、足も徐々に重くなってくる。


 その状態で滑り込んだシューティングレンジ。障害走の間中、泥が入らないように上手い事抱えていた自らの得物を操作する。

「……ッ」

 恐らく動作を安定させるシステムは入っているのだろうが、それでも疲労した腕は薬室に初弾を装填してセーフティを解除してセミオートに設定するだけの動きにブレをもたらし、そのブレが動作の僅かな、しかししっかりと体感できる遅れを生み出し、その体感できる遅れが焦りを産む。

 その疲労による足の引っ張りは構えた後にも当然続いた。

 銃を構え、飛び出してくるターゲットをサイト越しに捉える必要があるが、肝心のサイトが乗っている銃を持っているのは、この消耗した腕だ。

 多分普通の人間よりも早くそれから回復しているのだろうが、それでもタイムと弾を一発か二発ロスしたのは純然たる事実だ。


「くっ……」

 意外と思われるかもしれないが、射撃は恐らく全身運動だ。

 射撃の反動を抑えつつ安定した射撃姿勢を維持するには腕力だけではなく姿勢や体幹も重要になってくる――数発撃って、疲労した体ではそれが一苦労であると実感したところで理解した。

「ハンドガンもだ」

 最後の的を撃ち抜いて銃を降ろす。マガジン内の弾は既になく、再装填か――と思った矢先に背後から声が飛び、同時に的が飛び上がる。

「くっ……!」

 即座にハンドガンにスイッチ。

 スリングに任せたSG556が重力に引かれて体に当たるより前に体の中心に構えたハンドガンが9mm×19の弾を吐き出している。


 正面の的――構えると同時に放った二発が命中。

 即座に跳ね上がる左の的に反応してこちらも二発。

 二発目の衝撃を手に感じながら向きを変え、右の的にこれまた二発。

 最後に正面に戻して、遠方からこちらに突進してくる的に三発=二発を胸に、反動を利用して続く一発を頭に。


「よし、そこまで」

 今度こそ終わり。そう実感して銃を降ろした時、俺はハンドガンを抜いてから自分の呼吸が止まっていた事に気づいた。


「最後の試験だ」

 今度はそう言われて敷地の端。建設途中のような家の前へ。

 キルハウス――その名前は初めて知ったが、何をさせられるのかは大体想像がつく。

「室内には複数の敵が潜伏している。この入口から侵入。指示通りにここを突破しろ」

 全ての弾の装填を終え、セーフティを解除。

 ビニールテープか何かだろう、床に貼られたスタート地点の前で待機。


「開始!」

 建物の入口。扉をそっと開けて、そこから見える室内に銃口を向けたまま伸ばした腕で扉を押し開ける。

 敵の数は不明。こちらは一人。ハリウッド映画みたいに蹴り開けて突入する訳にはいかない。扉の開いた先に異常がない事を確認しつつ扉の裏も同時に見る。本来ならもう一人=相方と共同で互いをカバーしつつ行うが、今はワンマンアーミー故にある程度敵がいないことを祈りながらの行動となる。

 幸いこの部屋には誰もいない。扉の右手側に隣の部屋に続く入口を発見。

「……」

 カッティングパイ=入口から進まずその前で弧を描くように動いて向こう側の状況を確認する。

 今回も見える範囲に異常はない。後は見えない範囲=入口側左右の角と、十畳ほどの部屋の真ん中に置かれたソファの向こう側。

「……」

 可能な限り体を隠しながら見える限界まで左右の角を確認する。まず左側を終え、それから右側へ――その瞬間、正面で動いた。


「ッ!」

 即座に中断。銃口を動きのあった方向へ向けながらセミオートで発砲。二発目が見事にこちらに銃を向けるマンターゲットの顎を撃ち抜いた。

 銃声が二度、室内に轟いた。

 もし本当に敵がいれば、今ので全員に気付かれただろう。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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