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土竜・オブ・ザ・シティ  作者: 九木圭人
トライアル
12/259

トライアル3

 再度の対峙。互いの手の中にあるものが先程よりも接近の足を鈍らせている。

 今はただ試験であるが故にゴムナイフを使っているだけで、実際なら一瞬迂闊な行いをすればそこで死ぬ。

 互いのナイフから意識を逸らさず、しかしそこだけに視点を固定せず、互いに順手のままじりじりと距離を詰める。


「……ッ!!」

 不意に相手が動く。

 腹を狙った順手での刺突。それを左手で上からたたいて躱されたと判断した瞬間には引き戻し、こちらの反撃を同じように左手で逸らす。

「ッ!」

 それと同時の反撃。俺の視界を迂回するように右腕を外回りで首を狙う――直前に気付けなければ終わり。

 つまり、ギリギリで間に合っている。


 横からの刺突を間一髪腕で止め、相手が次の動作――引くにしろ、刀身を返して腕を切るにしろ――に移るより先にその肘の内側を切断。

「ッ!?」

 真剣なら右腕が動かなくなっているそれに相手が反射的に手を上げようとした、その動作を逃がさず左手で捕えて飛び込むと、そのまま勢いを殺さず腰を密着させる。

「おおっ!」

 掛け声とともに跳ね上げる。例え自分よりも多少大柄な相手でも、このぐらいのサイズ差なら何とかなる=脳の新部分がそう告げている。

 果たしてその宣言通り。柔道だって一本取れる背負い投げ。

「はっ!」

 間髪入れずにとどめ=落とした相手の喉元に突き下ろす逆手のナイフ。


「次、ラバーガンを拾え」

 言われてすぐ、その耳慣れない単語が意味するものに頭と目が反応した。

 リングのすぐ横に置いてあるAR-15の形をしたゴム製の訓練銃。全体はゴムで出来ているが、中にはウェイトが入っていて実物と同様の重さと重量バランスを再現している代物。

 これを使うという事は――振り向いた先に予想通りの相手=同じものを装備した先程までの対戦相手。素手、ナイフと来て今度は銃剣術という訳だ。


「話は聞いている。そいつも昨日同様手加減無しでやっていい」

 そう言えば、これに関してのみ実戦を先にやっていたのだった。手加減なしで、と言っても勿論今持っているラバーガンには弾が入っていないのだが。

「「……」」

 まあいい。真っすぐにこちらへ銃口を突き付けて相手がにじり寄って来る。

 その右手が持っているのは通常のグリップではなくストックの付け根付近。それと鏡合わせのように構えて、銃口の延長線上が相手の喉元に着くように向ける。


 互いに一歩。更に半歩。相手は僅かに左右に振ろうとしたのが見えたが、すぐに乗ってこないと察したようだ。

「……」

 そして更に一歩――そう見えた瞬間に奴はその一歩からもう一歩踏み込んでくる。

「ッ!」

 真っすぐに左胸の辺りに殺到する突き。体に届く直前にハンドガードの下部分で下から支えるようにして逸らす。

「ッ!!」

 その瞬間、相手の突きの質量がなくなる。

 突きは構えを崩すための布石――それに気づいた瞬間に身を縮め、捧げ銃に近い形で盾にした銃の機関部に、奴の銃のマガジンが叩きつけられる。

 視界外からの銃床打撃。後一瞬でも遅れていれば、実戦ならこめかみを砕かれているところだ。


「ぐっ……!」

 互いの銃が交差する形での拮抗。だが膠着に至るには少し短い時間。

 奴がこちらの銃身を抑え、それに対抗してこちらが押し返す――そこまで相手の想定済み。

 奴は俺の押し返す勢いを利用して腕を掴む――そこまでこちらも想定済み。

「ッシ!」

 腕を抑えようとするその一瞬に合わせて僅かに下がり、銃身で円を描くようにして奴の銃を払い落とす――ここで奴の想定から外れたのだと、完全に地面を向いた奴の銃口で悟る。


「らっ!」

 その隙を逃さずマガジンの底を奴の顔面へ。防具越しとはいえ本気で叩きつければ衝撃は凄まじい。

「!?」

 奴がたまらずノックバックしたその瞬間、更に半歩進みつつ銃を振り上げる。

「ッ!!」

 バットストックでの顔面への追撃。本当ならこの二発で奴の顔は完全に潰れることになる。

「そこまで」

 背後からの声に、その追撃は寸止めの形となった。

 振り返った先にハンターさん。もう一人の相手役の男も立ち上がってその横に控えている。

 咄嗟にローレディ=銃口を下に向ける。銃口を攻撃対象以外に向けるべきではないという基本は、ゴムであっても実行するように刻み込まれている。


「素晴らしい実力だ」

 そう賛辞を送って手を叩く彼のその音に混じって、ほんの僅かに足音のようなものが背後から聞こえた瞬間、俺のいじられた部分はこの状況を正しく理解した。

「!!?」

 そしてそれが、本当にギリギリでの把握だった。


 状況=ハンターさんの横に一人の敵。声をかけられて振り向いた関係上それまで戦っていた相手は背後にいる。

 そこまで組み上がったのと同時に振り返ろうとして、背後から伸びて来た手にラバーガンを掴まれた。

「ぐうっ!?」

 両腕での拘束。こちらの武器を奪う――いや、それだけではない。

 ハンターさんの横に立っていたもう一人=立ち位置的に片手がどうなっているのかが見えにくかったそいつが視界の隅で動く。

 その見えなかった方の手の中にはゴムナイフ。


「ちぃっ!!」

 対応を即座に変更。背後からの相手に一度体を依託して、突っ込んできたナイフの方に蹴りをくれる。

 ナイフが届くギリギリの距離まで引き付けての渾身の一撃。完全に吹き飛ばすには至らないが、それでも一度勢いを削ぐ位の事は出来る。

 奴が止まった一瞬。即座に足を引き戻して、背後の相手の背に片手を回す。

 ライフルを奪うか、それが出来なくても動きを封じる――大方目的はそれだろうそいつを、そのまま前に投げ倒す。


「動くな」

 地面に転がったそいつの頭の真横にストンピング。即座に半歩下がれば、再起動したナイフの方の間合のぎりぎり外+倒れたもう一人の障害物つき。

 その距離でライフルを構える。ただし今度は銃剣術ではなく、通常の立射姿勢で。


「状況終了。今度こそ終わりだ」

 改めて宣言したのはラディコスさん。相手役の二人も立ち上がって防具を脱いだところで、ようやく本当の終了だと悟った。


(つづく)

今日はここまで

続きは明日に

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