トライアル2
先程選択した装備品一式を再度身に着ける。支給された古着がオリーブドラブのTシャツとサンドグレイのワークパンツという組み合わせだったため、そのまま飛んだり跳ねたりするのも訳ない。加えて、あの闇医者が用意してくれていた靴も動きやすい上に底が厚くサイズも丁度いいと来ている。
試験内容はまずこの敷地の外周をぐるっと囲むようなトラックを十周。それから格闘訓練。その後トラックの内側に設置されたアスレチックを突破して、そこから間髪入れずに射撃。最後はキルハウスと呼ばれる、建物を模した訓練施設でより実際の戦闘に近い形での試験となる。
銃には流石に実弾は込められていないが、渡された青いテープを巻いたマガジンには空砲が装填されており、予備のマガジンやセカンダリーも含め全てその状態。つまり持てるだけの弾を持った状態での試験となる。
全て合わせて十数kgはあるだろう一式を纏えば、早速試験開始だ。
「まずは武装走だ」
その最初の試験となる装備全てを身に着けた状態でのランニング。ちゃんとした運動など何年振りかという状態では少し不安だったが、走り始めて直ぐに不安は払しょくされた。
人工筋肉の体と、機械を入れた脳みその組み合わせは、ただの無職を一瞬のうちに十分な実力を持つ兵士の肉体に作り替えている。
「はっ……はっ……はっ……」
「ラスト一周だ」
その頃になっても息は弾んでいるがまだ余裕はある。
何度も回った周回を更に重ね、第四コーナーを回った先に見えたゴール。それを越えるところでトラック内側に用意されたスペースへと誘導される。
「銃を置け」
そこで待っていた集団=先程のハンターさんと一緒にいた男たちが防具に身を固めてお出迎え。彼らの着けているのと同じフェイスガード付きのヘッドギアと股間にプロテクター、それにオープンフィンガーを装着して、今やそれがリングだと分かったスペースの中へ。
当然、リングである以上対戦相手は中に待ち構えている。
「……」
やることは分かった。ただ単に格闘能力を見ると言うのではない。武装走を終えた状態=万全ではない状態でどこまで出来るのかを見たいということだ。
しかもこれは試合ではない。レフェリーもいなければルール説明も無し。当然ながら開始の合図さえもない。
「ふぅっ……」
息を整える。走って弾んだ呼吸を、その勢いをそのままに、しかし体力は何とか温存しておく必要がある。
互いに構え合って距離を詰める。格闘技経験はないが、俺の脳にはムエタイに柔道や合気道を組み合わせたような格闘技とナイフ術、銃剣術がインプットされている。それらの技術がラグもなく肉体で再現できるのは言うまでもない。
「「ッ!」」
対峙は一瞬。構えはとっても仰々しくするのではなく、あくまで自然に接近する中で動きを止めないような構え。
向こうは当然ながら万全の状態故に確実な有利を得るため。そしてこちらは、走ったペースを維持したまま落ち着いて疲労感が出てくる前に終わらせるため。
まさかこの一戦だけではあるまい。となれば、走っている分こちらの方が体力的な不利を抱えている。一人一人に時間をかけるべきではない。
加えて、こうした戦闘において「先んずれば人を制す」は絶対だという事はいじくられた脳みそに深く刻まれている。
両者適度に力を抜いたその状態で相手の間合に入った瞬間、相手の前蹴りが飛んでくる。
「ッ!」
払い落とすと同時にそれを狙っていたかのように即座の右ストレート。これを左手で、外から内側に落とすようにして払い落としつつ奴の左側へ踏み込む。
「シッ!」
その足に合わせて顔面にフック気味に右。確かな手応えをグローブ越しに感じる。
「っと」
同時に奴はまだ動く。なら、倒れるまでやるだけだ。
「シャァッ!!」
反撃に転じようとする相手に飛び込んで首相撲の形をとり、それに相手が気付くのとほぼ同時に鳩尾めがけて膝を叩き込む。
「ぐっ!?」
防具越しでもその威力は伝わっていたようだ。僅かに浮かび上がった相手の体からくぐもった声が漏れる。
更にもう一発の膝。駄目押しの三発目――それを警戒して左足を上げた奴の、そのために全身を支えることになった右足を大外刈りで刈り倒す。
「がっ!?」
地面に奴が落ちる。首に絡めていた腕をそのままチョークスリーパーの形に巻き付ける。
相手:尻を撞き、両足を投げ出した形。
俺:奴の背中に密着し片膝だけついた形。
どちらが優位かなど、仮にその形に入った瞬間に奴がタップしたのでなくても明らかだった。
即座に拘束を解く。そして勝利の余韻に――浸るような余裕などなく即座に気配のした方向へ振り向く。
「おおおっ!」
突入してくる二人目。振り上げた右手の中にはスポンジ製のマチェット。
「ッ!」
その袈裟懸けを一歩跳び下がって躱し、振り抜いた反動で振るうような横薙ぎも同じように躱す。
二度の後退。しかしその間も前に出る体勢は維持。
「ッ!?」
奴が再度振りかぶる。その出端を抑えるように今度はこちらが飛び込んでいく。
一瞬遅れた奴の反応。刃物と素手の瀬戸際の間合では致命的な一瞬。
「ちぁっ!」
それを知らない相手ではなく、間合を合わせるために踏込みを小さくして二度目の袈裟懸け――その一瞬前に間に合った俺の左腕が、奴の武器を操る右手に叩きつけられる。
再び止まる一瞬。再び生まれる隙。
しかし今度は、先程と比べても比べ物にならない程に致命的。
「シャッ!」
斬撃を止め、その動作自体を踏込みにした右の掌底。斜め下から顎を突き上げられた相手からすれば一瞬視界から敵=俺が消えている。
そしてその時に感じるのは、左手が極められる感触と、足の裏から消える地面だ。
「オラッ!」
顔面への掌底からそのまま首を奥へと押して曲げる、同時に武器を持っている右手を極める、足を払って背中から落とす。この三つを同時にこなし、相手の背中を地面に叩きつけると同時に右腕が完全に極まる。そして駄目押しに振り下ろす右の拳。防具越しに奴の顔面を叩き潰さんとする。
「次、ナイフだ」
その言葉に相手の拘束を解く。二人目はこれで終わり。今度迫っているのは一度下がった一人目。ただしその手にはこれまたゴムナイフ。
「よし……」
それを目にした瞬間、早押しクイズのような反射で、俺の手は自分のナイフを抜いていた。
(つづく)
今日はここまで
続きは明日に




