トライアル1
文字通りの武器庫。日本にいた時は全く詳しくなかった銃火器の類が壁に並び、恐らくその改造や修理の為だろう道具が奥の作業台に所狭しと並べられている。それらより手前には身に纏う諸々や、それらに追加する様々なパーツがこちらも並べられていて、今すぐにでもこの建物で立て籠もりが出来そうなレベルだ。
その圧巻の光景を見ても、俺の脳に新たに刻まれた機能は、それが小規模で控えめな在庫状況であると物語っていた。
「見ての通り、今は数もそこまで多くないが……」
そう言いながら、新しい上司は近くにあったプレートキャリアを一着こちらに寄越す。
コヨーテブラウンと呼ばれるきつね色に近いカラーリングのそれは、サイズこそ違えどエリカと名乗った少女の身に着けていたものと同じタイプで、正面と背面のどちらにもほぼ全面に施されたウェビングを使って各種のパーツを取り付けられるタイプだった。
「そいつに中身を入れて着てみろ。それで問題なければ、次はこっちに来てくれ」
そう言って渡されたのは二枚のトラウマプレート=抗弾プレート。これをプレートキャリアの裏側、即ち体に接する側に設けられた専用のポケットに挿入することで銃弾に対する防御力を得る。軍用小銃でさえ防ぐことができる程のものであるため、二枚挿入すればそれなりに重量は増すが、当然ながらだからと嫌う理由はない。これも当然の話だが、基本的に人命、特に己のものはもっと重いのだから。
言われた通りにして、近くの姿見の前で装備に袖を通す。初めて見る軍用品の装備方法まで身についているとは、全くあの闇医者先生には足を向けて寝られない。
「よし、問題ないな」
サイズも、着心地も問題なし。動いてもズレる心配はなさそうだ。
それを確かめてから呼ばれていた銃火器の並ぶ壁へ。ずらりと並んだライフルたちがお出迎え。
「この中から自分の道具を選べ。どれでもいい」
「どれでも、ですか」
「ああ。見ての通り数はそこまで多くないが、自分で使いやすいと思うものだ。俺たちの仕事場はサイストック全域、即ち、市街や施設内がメインとなる。取り回しを考えてな」
言われてから改めて壁に並ぶそれらを一瞥する。
銃器なんてゲームや漫画ぐらいでしか知らなかったが、今は違う。それぞれがどういうもので、どういう用途を想定しているのかも一目見ただけで理解できる。
「さて……」
少しだけ考える。候補に挙がるのは二挺。
念のためを考えてすぐ横にいるラディコスさんに確認。
「俺はあの子と組むんですよね?」
「そうだ」
答えは出た。候補の二挺は片や.45ACP弾を使い、もう片方は5.56mm×45を使用する。
補給や現場での弾の融通を考えるなら、コンビを組むことになる相手と弾を――できればマガジンも――揃える方が都合が良い。
「なら、これにします」
SG556。今ある中でこれらの条件を満たしうるものはこれだと、頭の中の戦闘担当が決定を下す。
「よし、なら決まりだ」
上司の許可ももらえたところで、その他の装備品の確保に回る。
今決定したプライマリーウェポンの補佐としてのセカンダリーウェポン、それを提げるためのホルスターと、諸々を携行するためのタクティカルベルト。そらからそのベルトと身に着けているプレートキャリアに装備する各種の装備品諸々etc――。
それら一式をそろえると、ずしりと重みを感じる重量感がある。だがそれも手に持っている状態では、という話だ。全身に纏ってしまうと重量のバランスと人工筋肉を仕込んでいる肉体故かほとんど重さを感じることはなくなった。
「準備できたようだな。なら、そいつで行くところがある」
そう言って外に出る彼に続く。一分後、俺は昨日ここに連れてこられた車に乗せられ、彼の運転で人気のない住宅街へと向かっていた。
時刻は午前9時を少し回ったぐらい。閑静な、というよりも廃れたと言った方が実情に近いだろうボロボロの家の並ぶ区画を抜けると、不意にちょっとした運動場のようなものが現れた。
「ここは都市モグラの共同訓練場……みたいなものだ」
そう言いながら脇の駐車場と思しき空き地に車を停めるラディコスさん。二人で施設内へ入ると、待っていたのは彼と同年代と思われる男たち数名だった。
「よう、アルファの」
そのうちの一人、さび色の髭を蓄えた男が、彼を見るなりそう呼びかける。
アルファの、つまり弊社=モーラー・アルファ社。
簡単に挨拶を済ませた後にその人物が俺の方をちらりと見た。
ほんの一瞬の視線、しかし値踏みをするような、というよりも鑑定士のような目。
「こいつが話した新人だ」
その視線に説明するような我が上司の言葉。それに合わせてちらりと目が合う。
「レブ・シドウェルと申します」
「ハンツ・エージェンシーのハンターだ。よろしくな」
その挨拶を付き合いのあるらしい我が上司が補足する。
「ハンツ・エージェンシーはうちと付き合いのある都市モグラでもあるが、同時に口入れ屋も手掛けている。それにこういう訓練もな。大掛かりな仕事の時には大体人間を用意してくれる」
「そういう事だ。例えば、昨日お前さんが撃った男とかな」
そこで関係が繋がった。
同時に緊張が背筋を伸ばさせる。つまり、俺はこの人物にとっては全く無関係ではないという事だ。社員をやられたか、或いはそれ以上の損害を――。
「ハッハ、気にすることはないさ」
それは本人も気付いているようで、多分強張っただろう俺の表情を一笑に付した。
「あれは俺の所の人間じゃない。ただあの仕事のために紹介しただけだ。それに何より、あれも死んじゃいないしな」
「えっ?」
「サイボーグさ。あんたと同じにな。緊急搬送されてはいたが、一命は取り留めた。加えて費用も奴の自腹だが……、まあ気にすることはない。こんな渡世なんだ。織り込み済みだろうよ」
まあ、それなら良かった。
これから関係がある人間に最初から恨まれているなどと言うのは、俺にとっては人を撃ったことなどより遥かに問題だ。
互いに言葉を交わしたのが頃合いという判断だったのか、そこで初めてラディコスさんが俺に何をさせようとしているのかを聞くこととなった。
「さてシド、ずぶの素人ではない事は分かっているが、それでも一応テストをしたい。君がどこまでやれるのか、という事だ。コンビを組ませる上で、余りに差があると支障もある」
「了解です」
提示されたテスト項目は、きつかった記憶のある学生時代の体力テストとは全く別の、よりハードな代物だ。何しろ基礎的な体力や運動能力を測るのではない。ここで見られるのは体力と戦闘能力だ。
(つづく)
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続きは明日に




